楽器をお迎えしました | Jazz Violinist入山ひとみの『つぶやく。』

楽器をお迎えしました

Facebookに書いたもの転載します。

先日ぐっちさんの楽器をお迎えし、引き継がせて頂く事となりました。人間的にも音楽的にも未熟者な私に託してくださったガリバーさんには本当に有難く光栄に思っています。ぐっちさんを愛する皆様にご報告したく、普段ほぼ「からあげ」としか発言しない私が長文投稿させていただきます。



会いに行ったあの日にガリバーさんが「ひとみちゃんは一番弟子的存在で」と仰ってくださったのが光栄すぎました。私の今ある音楽生活のキッカケは紛れもなくぐっちさんなのですが、出会った当初まだロック少女で、ギターやドラムで暴れており今よりめちゃくちゃ。バイオリンもあまり弾いていないような奴で、師匠と言わせて頂くのもおこがましいと思っていたからです。ぐっちさんに出会った事で音楽人生がガラリと変わりました。私が京都に行く事になり、そこでJAZZ研に入部しエリントンやローランド・カークを知る事になるよりも前の話です。

ぐっちさんの所に通う日々は、自分の欠点や最も基本的な事、また拘るポイントを知るきっかけとなり、それが今の私に活かされています。今こうやって演奏したり教える事ができるのも当時の経験があるからです。相当アホだった私は(具体的なアホエピソードは割愛)ぐっちさんに憧れてライブに行ったりご自宅に通ったりして幸せでした。当時のぐっちさんは歌も歌ってたりして、今思うと貴重なライブを見れてたんだなと思います。

京都に行ってからも度々ご連絡を頂き、本当に生意気のくせにあがり症で何も出来ないのに私にお仕事を振ってくださるようになりました。先日ガリバーさんにも話したのですが、今私の目の前にあんな奴が現れたら私はシバくと思うくらい生意気でした。そんな私を嫌な顔をせず受け止めてくださるとは器の大きさを感じます。見習わなくてはと思う日々です。

あんなにお世話になったのに全然恩返しができなかったと後悔しながら神戸に急いだあの日、ぐっちさんの所にはひっきりなしに色んな方がいらっしゃっていました。なのに気づくと誰も居なくなり私とマンツーマンになったんですね。これはぐっちさんからの説教だ。来るの遅いねん、という説教をされるのだと思っていたところ、楽器にある素敵なアートを描いたミリアートのみきさんとガリバーさんと一緒にぐっちさんを囲む事ができました。

楽器は弾き続けないとスネてしまうので、ぐっちさんの楽器がどうか大切にちゃんと弾いてくれる人のところに行って欲しいと願っていたところ、ガリバーさんより引き継ぐお話を頂きました。都合の良い解釈かもしれませんが、マンツーマンになれた理由はこれだったのかもしれません。

そんなこんなで今回の関西滞在中にお迎えする日が来たというわけです。



お迎えする日にぐっちさんが長年預けていた工房を訪ねる事ができました。そこには20年間の記録があり、職人さんからは貴重なお話を聞くことができました。この楽器は今後もこの方にお世話になっていこうと決めています。



そんな中、必要の無くなったオリジナルパーツがあると職人さんが出してくださいました。それはヒビが入って使い物にならなくなったネック部分。こちらを持ち帰る事にしまして、ミリアートのみきさんに描いて頂くことをお願いしました。出来上がりが楽しみです。
みきさんは私の腕にもミリアートを描いてくださり、ぐっちさんの愛した素敵なアートと共に翌日以降のライブに臨む事ができました。

実はこの素敵なアートについてぐっちさんに連絡を取ろうとしていた矢先、訃報が飛び込んで来たのです。それが今私の腕にある。なんだか不思議な気分でした。



長いのでここで分けます。続く…

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【続き】

からあげ…

楽器をお迎えして帰る際に、ガリバーさんにいつか予告なしで聴きに行くと言われ、その言葉の重みを受け止めつつ翌日以降のライブで早速弾いてみる事にしました。責任重大。

翌日のライブでは楽器をお迎えした際に頂いた遺品の衣装を着る事にしました。それはぐっちさんが敬愛している(私も)Regina Carterさんに会えてご自宅で一緒に演奏した際に着ていたものです。この服にも素敵なミリアートが描かれており、私の腕に描いて頂いたものと相まって再出発に相応しい感じがしました。



ライブが始まって顔を上げると予告無しでやってくると言ったガリバーさんが!ぐっちさんの再出発を見守りに来てくださいました。今度は一緒に演奏させていただきたいです。



まだ完全に扱えてはいませんが、今年に入ってから殆ど弾かれてなかった楽器に空気がバーーーッと入って音がガンガン蘇る感じがしています。これから沢山の人にこの楽器の音を聴いてもらえるように頑張ろうと思います。私の楽器もスネないように仲良く弾いていきたいです。

ぐっちさんの音楽ルーツをRegina Carterさんに話している映像をみました。偶然にも私と似たようなルーツで、「もしかして私で良いかも!」と思える瞬間でした。
また、楽器ケースの中を確認すると、松脂スペースにお金が。これは飲み代に違いない!実は私もケースに飲み代を入れてます。
楽器を継承するのは本当に私で良いのだろうかという少し残っていた気持ちが、これを見て完全に「私しかおらんな!」に変わった訳です。笑



この約2ヶ月半、自分のレコーディングも重なった事もあり、今までの自分とより向き合う事になりました。忘れかけていたヘドバン少女時代の記憶。「バイオリン使うバンドやってみてぇ〜」からのぐっちさんとの出会い。隣の部屋から現れる大男にビビる入山。「私は柄しか着ない」というオシャレ番長発言。あがり症の私に「“バイオリン弾けるんスゴいデショ"くらいの気持ちで弾けばええねん〜」と笑う。数々の語録や面白シーンが記憶にこびりついています。

本当にお世話になりました。感謝の言葉ばかり出てきます。今度は私が弾き続ける事で恩返ししていきたいと思います。

不器用な私ですが、大切に弾き続けますので、皆さんどうぞ宜しくお願い致します。ぐっちさんを思ってStrayhornのLotus Blossomをレコーディングしました。想いが届きますように。沢山の方に聴いてもらえるよう、もっと努力を重ねないとです。