Olivier Benoit(1969.6.9 仏 ヴァランシエンヌ)が2014年から2017年までの4年間をフランス国営ジャズオーケストラOrchestre National De Jazz(以下ONJ)の音楽監督に就任し、メンバーにEric EchampardとBruno Chevillonが選ばれたと知ったのが今年1月のことで、これは私にとってちょっとしたニュースでした。以来、アルバムのリリースを心待ちにしていたんです。
わくわくしながら第1作目のEuropa Parisを聴き終えたとたん、こいつぁー傑作だわと確信しました。3日連続で3回とも貪るように聴いてしまったほど中身が濃く聴き応え満点で、2枚組CDという長尺も全然気になりませんでした。
アルバムタイトルがEuropa Parisでこのジャケ写ですから当然(?)、全編を通して雰囲気は夜の都会です。しかも深夜...。
現代欧州ジャズで変拍子やポリリズムは珍しくないですが、それらを駆使して複雑に構築した曲が多く、Eric EchampardとBruno Chevillonの起用に深く納得したしだい。オスティナートを多用し、ドローンを効果的に配し、即興、フリー、場面によっては室内楽的な趣もあり、またドラマティックで壮大と感じる場面も多いです。そしてやはりギタリストらしいロックなテイストが幅をきかせていますね。もちろんどの曲にも入念な作編曲の跡がうかがえてソリッドな仕上がり。崩壊寸前の不協和音でさえ気持ちいいほど決まってます。
また、数曲においてはアブストラクトですが、これはおそらくサウンドスケープ(音風景)を楽器で表現しているのだろうと思います。鳴っている音はランダムのようで実はそうでなく、おそらく作曲によって巧妙に配置されたもの。ここでは演奏がかなり実験的で変態になっていて、美しさのみならず光の届かぬ闇の妖しさや魑魅魍魎が跋扈する都会のえげつなさをも描き出しているかのようでとても幻想的。この効果音的サウンドスケープにはイマジネーションを強く刺激されて凄く面白かったです。
Olivier Benoit、Bruno Chevillon、Eric Echampard、Hugues Mayotの4人以外は知らなかったのですが、他のメンバーもみな達者ですね。難曲が多いですが演奏はお見事というほかなく、刺激的でエネルギッシュでむちゃくちゃかっこええんですわー。もうここまでかっこいいと、やれジャズロックやとかプログレやとか実験音楽的やなどといちいちジャンル分けすんのがアホらしなってくるね(笑)
Olivier Benoitのギターは、ここでも変態ノイズ系(?)で、とっても個性的です。
さて、全編テンション高いですが、中でも異彩を放つのがSophie Agnelの内部奏法。ピアノが可哀そうになるほどのただならぬ音響は、「近寄るな!危険」てな感じで怖い怖い(笑)おあ姐さんにピアノで啖呵切られて後ずさりながら「ひょえーっ!ごめんなさい。何でもいうことききますからどうかお許しを...」と、へいこらしてるみたいなホーンセクションがちょっぴり可笑しいのと、おそらくオマージュとしてAndy Emler MegaoctetやPink Floydをパロったと思われる個所がある(勘違いだったらすまん)くらいでユーモアをほとんど感じさせず、それはそれはシリアスでスリリングな作風です。
こんな感じでとってもアヴァンギャルドでプログレッシヴなのに、気品さえ漂う芸術作品に仕上がっているところが偉い!と思います。
ところで、本作にはボーナストラックが2曲ありますが、通して聴けば決して付け足しやオマケなどではなく、作品としてのアルバムを構成する大切な要素だとわかります。CD1の1曲目は、室内楽的壮麗さと美しさを持つ出だしからダイナミックでパワフルで現代的な展開をするプロローグとして。CD2のボーナストラックの2曲目(最終曲)は、果てしない広がりを感じさせ、どこか物悲しく、しかし物語は続くよ的なエピローグとしての雰囲気をはっきりと印象付けています。
Olivier Benoitは、Paolo DamianiのONJ(2000~2002)に参加しており、また、Circum Grand Orchestra(作曲・ギター担当 12人編成)とLa Pieuvre(作曲・指揮担当20人編成?)、そしてこの二つを合体したLa Pieuvre and Circum Grand Orchestra(作曲・指揮担当 32人編成)という自己プロジェクトのラージアンサンブルでの実績がありますが、人選も含めONJの音楽監督としてアルバム制作に全身全霊で取り組んだ結果、彼の才能が存分に発揮され、ここで見事に開花している感があります。おそらく日本では全くの無名でしょうが、Olivier Benoitの作編曲とオーケストレーションの手腕やコンテンポラリーな音楽的センスは高く評価されるべきだと思います。
欧州の経済・文化・芸術の拠点である3都市をテーマに据えたONJのEuropa Paris、Europa Berlin、Europa Romeという3部作の、次なるアルバムEuropa Berlinはどんな感じになっているのでしょうか。ひょっとして、インダストリアル系?
いやー、実に楽しみですなあー。
御用とお急ぎでないかたは、ONJのホームページへどうぞ。
前回のブログで既に紹介してますけど、ONJがメールスフェスティヴァルに出演した時の動画をここにも貼っときます。
Theo Ceccaldiのいてまえ的ヴァイオリンソロやら、小柄なたおやか美人Alexandra Grimalの火傷しそうなテナーソロやら、Sophie Agnel姐さんがピアノを苛む場面やら、興奮した聴衆の歓声と指笛ピーピーやら、見どころ聴きどころ満載で面白い。私なんか3回も観てしもたし。
moers festival 2014 : Orchestre National de Jazz Olivier Benoit (51:12)
http://concert.arte.tv/fr/moers-festival-2014-orchestre-national-de-jazz-olivier-benoit
■ Orchestre National De Jazz / Europa Paris (ONJazz Records 424444)
Olivier Benoit (el-g, comp, dir)
Bruno Chevillon (b, el-b)
Jean Dousteyssier (cl, bcl)
Alexandra Grimal (ts, ss)
Hugues Mayot (as)
Fidel Fourneyron (tb, tuba)
Fabrice Martinez (tp, flh)
Theo Ceccaldi (vn, va)
Sophie Agnel (p)
Paul Brousseau (Fender Rhodes, bass synthesizer, effects)
Eric Echampard (ds)
入手先:Amazon(通販)