いきなりで恐縮ですが、私にとって本作が2010年の第1位となるのは確実です。デビュー作AU REVOIR PORC-EPICを聴いたときも確かに素晴らしいと思いましたし、今後の活躍が楽しみだとも書きました(その記事はコチラ )。が、しかし、このCDとDVDの2枚組を鑑賞したとたん、あのときの私は彼らの真価を理解するに至らなかったと思い知らされました。特に、やはりDVDで観るライヴ映像は圧倒的な迫力で、これを初めて観たとき、目と耳は釘付け、お口あんぐり、身は乗り出したまま。そういう状態でとうとう画面の前から一歩たりとも動けず、「まるで魔法みたい!」と思ってしまいましたよ。だってだって、あれほどの難曲を余裕綽々で一切の譜面を見ず完璧にやってのけるんですから。ええ、もう、ただただ唸るしかないです。
本作は、2009年にリリースされたEMILE PARISIEN QUARTETのセカンドで、CDとDVDの2枚組。CDは、5曲のうちリヒャルト・ワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」にインスピレーションを得た(?)と思われる1曲を除き全てメンバーの4人によるオリジナル曲(録音年月日不明)。DVDは、2007年11月7日にパリのLA MAISON DE LA RADIOで行われたライヴの模様を収録。演奏しているのは新曲2曲とデビューアルバムのAU REVOIR PORC-EPICから3曲の合計5曲です。映像は奇麗で16/9のフルスクリーン。ただしPAL方式です。
リーダーのEMILE PARISIENが本作で演奏するのはソプラノサックス一本。木管のなかでも大好きなソプラノサックスについてはちょっとうるさい私ですが、彼のソプラノはまさに絶品。完璧なコントロールと演奏技術、木管の持つ丸みを帯びた響きと深みのある艶やかで美しい音色、豊かな表現力、と、どれだけ褒めちぎっても足りないくらい。1曲でアドリブソロを聴くだけでも、彼は天才に違いないと納得します。他の3人もリーダーに負けず劣らずの凄腕揃いで、演奏は最高レベル。
クラシック、現代音楽、ロックといったジャンルを軽々と飛び越えた予断を許さない千変万化の曲調、ストーリーを感じるドラマティックな展開、リズムとテンポは変幻自在、洗練を極めたアレンジ...。EMILE PARISIEN QUARTETが創造するジャズは最高にエキサイティング。そして唯一無二です。
...ええい!もう我慢できない(笑)
ここではっきりと申し上げますが、EMILE PARISIEN QUARTETは、フランスのジャズ史に名を残してもおかしくないほどの凄いバンドですよ。
あの~、誠に唐突で恐れ入りますが、本作に関して注意点を少々。
無調、アブストラクト、シリアス、ハードとかなり硬派ですし、不吉で不気味な雰囲気になったり、一部に轟音もありますので、くつろぎのティータイムなどには不向きです。私は全く平気ですが。
また、ダイナミクスは繊細にして大胆です。聞こえないからといって最初にヴォリュームを上げ過ぎたままですとそのうち大音量となり近所迷惑は必至です(笑)
大きく分けて、ひとつは作曲された部分(テーマなど)や演奏上あらかじめ決められた部分。もうひとつはアドリブソロ、インタープレイ、フリーインプロといった瞬時の閃きや反応を伴う部分。彼らの演奏においてこの二つはほぼ等価であってしかも複雑に交錯しており、その隙間を縫うように難しいキメが頻出します。互いを知りつくし、予測できないものを不意にキャッチする能力を持ち、音楽的な勘の鋭さが備わる凄腕の4人が、鋭く反応し合い高度なキメやユニゾンを余裕のヨッチャンで演奏する様を目の当たりにすると、あたかも4人がひとつの楽器にメタモルフォーゼしたかのように感じることもしばしばです。当然ながら演奏に伴うテンションも半端じゃなく凄い。そのうえ、激しくもアブストラクトなインタープレイから何の前触れもなく突如シンクロしたり、あるいはまた、爆発的でぐっちゃぐちゃの耳をつんざくような大音量のフリーインプロから一音でビシッと演奏を終わらせたりといった、無秩序から瞬時に鮮やかな着地を決めてしまう離れ業も一度や二度ではないので、冒頭でも述べたように初めてDVD観た私はびっくりするやら大興奮するやらでそらもう大変でした(笑)
彼らのこういう演奏は、おそらく綿密な打ち合わせと厳しいリハーサルを積んだうえで成り立っているに違いないと今では納得してますが、それにしても、これほどのバンドはそうそうあるもんやないですよ。
しかし、このバンドの本当に凄いところは、4人の音楽的美意識に基づいて楽曲に知的で入念な構成を施すことで、ジャズという音楽を真の意味で芸術の域にまで高めている点にあります。音づくりには一切の妥協が無いように思われ、そういう意味ではとても真摯ですが、かといって決して頭でっかちで終わっておらず、反復して聴くに値する音楽性の高さと完成度を誇っているところがエライ。これは、4人の音楽的美意識が同方向だからこそ可能なことです。
そんな彼らのことですから当然ながら表現力も超一流で、時にゴシックホラーのごとく暗黒な恐怖に満ち(助けてー!)、時に耽美でエレガントであり(うっとり♪)、時に官能的であり(キャッ、どないしょ)、時に感情が激しく揺さぶられるほどに悲劇的であり(涙)、時にコミカルでユーモラス(ウキウキ)、といった具合に聴き手を完全に魅了して彼らの音楽世界へと引きずり込んでしまいます。
駄文を連ねましたが、EMILE PARISIEN QUARTETの演奏には筆舌に尽くしがたいほどの素晴らしさがあります。何と言ったらいいか、とにかくDVDでライヴを鑑賞する限りにおいては、演奏に一音たりとも余計なものが存在しないと感じるほどに完璧で、感動的であると同時にとても美しい。そしてそして、興奮と驚きの連続です!!
DVDには、4人が音楽を創造する過程を追ったドキュメンタリーも収録されています。バンドのリーダーはEMILE PARISIENですから、ステージを取り仕切るのは彼でアドリブソロの出番も多いですが、創造の過程においては4人が対等に意見やアイディアを出し合い、それに基づいて実際に演奏しながら曲を練り上げ完成させて行く手法を採っていることが分かり、彼らの音楽に対する考え方や姿勢も明らかにされるなど、とても興味深い内容になっています。
本作はCDもDVDも文句なしの傑作。☆が5個でも足らんぐらいです。というわけで、アーティチョークは欣喜雀躍してます。
EMILE PARISIEN QUARTETのホームページはこちら。
http://www.emileparisienquartet.com/
YouTubeも是非お試しあれ。
http://www.youtube.com/watch?v=HdoKNyn3X88
■EMILE PARISIEN QUARTET / ORIGINAL PIMPANT (Laborie Records LJ 07)
EMILE PARISIEN (ss)
JULIEN TOUERY (p)
IVAN GELUGNE (b)
SYLVAIN DARRIFOURCQ (ds, perc)
入手先:Amazon(通販)