EMIKO MINAKUCHI TRIO / KOKOLO | 晴れ時々ジャズ

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日々の雑感とともに、フランスを中心に最新の欧州ジャズについて書いています。

本作は、パリで活躍する日本人ピアニストEMIKO MINAKUCHI(水口 恵美子)、フランス人ベーシストHUGO CECHOSZ、イタリア人ドラマーFRANCESCO PASTACALDIのトリオによるファーストアルバムで、リリース(録音年月日は不明)は2005年です。
強豪ひしめくジャズの本場であり、おそらく聴き手も恐ろしく耳が肥えているであろうフランスのパリを活動の拠点に定め、オリジナル曲を中心にしたアルバムをリリースする日本人ジャズミュージシャンが何人いるのかは存じませんが、これまでそういう例はあまり聞かなかったような気がします。いつもチェックしているフランスのABEILLE MUSIQUEというディストリビューター(配給元)のサイトに本作を見つけて興味を持ったことを覚えていましたので、試聴のうえ入手してみました。

全9曲のうち、美空ひばりの歌唱であまりにも有名な「りんご追分」を除き、全てEMIKO MINAKUCHIのオリジナル。優しく美しいメロディを生かした楽曲の数々に、瑞々しく繊細で詩情豊かな演奏表現を見せると同時に、エネルギッシュでエモーショナルな一面をも発揮し、静と動をしなやかに行き来しています。

1曲目のFRAGILITEから素晴らしいではありませんか。イントロのピアノはごく静謐に、やがて軽やかで美しいメロディが現れ、演奏がしだいに躍動感とスピード感を増して行くにつれ、何だか不思議なパワーをもらえるような、勇気を与えられるような、そんな気分にしてくれます。アルバムの最初にふさわしい、何か素晴らしいことが起こりそうな予感のするダイナミックで爽やかな印象の曲。FRANCESCO PASTACALDIの小気味良いドラムも◎。
2曲目のACACIAで聴かれるピアノの瑞々しさと繊細さはどうでしょう。静かで優しい自然の懐に抱かれるような気持がします。素朴なメロディでありながら、ピアノのアドリブは内に秘めた情熱を感じさせます。
3曲目のPOUR TOIは、明るく美しいメロディ。日曜の午後にゆったりと寛いでいる気分。FRANCESCO PASTACALDIのドラムにもスポットが当たりますが、この人の演奏、エエわ~。
4曲目のLE CIELは、ベースのアルコとピアノのユニゾンが素敵。ちょっぴりせつなく甘酸っぱいメロディが印象的。こんな曲を聴きながら、ゆったりとした気分に浸れたら幸せ。
5曲目のRINGO OIWAKEは、奇をてらわないストレートな歌い口。全体を通して繊細、優雅な演奏でありながら、中間部はけっこう情熱的に盛り上がる。
6曲目のKIMは、可愛らしく美しいメロディを溌剌と歌い上げる彼女のピアノが何度聴いても素晴らしい。眩しい青空を見上げ、新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込んだときのような清々しさで躍動的に盛り上がる。FRANCESCO PASTACALDIのドラムスも光っています。
7曲目のLA MAISON DE HARAは、どこか祈りにも似た詩情豊かなピアノで、静かな雨降りの午後の情景を思わせます。
8曲目のJEUXは、アルバム中最も無調寄りの曲です。このようなアグレッシヴな演奏においてもハーモニーのセンスに彼女の美意識が伺えるような気がします。ここでもやはりドラムが光っています。というか、私好みの演奏なのですね~。
9曲目のTOUT MON POSSIBLEは、優しいメロディを素直に歌っています。

本作は予想をはるかに上回る素晴らしい出来なのです。ピアノが主役ながら、トリオは常にアンサンブルを重視する傾向にあり、各人の力量、バランス、相性ともに申し分ありません。何度聴いても飽きることがなく、ずっとこればかり聴いていました。EMIKO MINAKUCHIのピアノにはヒューマニズムを感じ、聴き手はどのような演奏においても置いてきぼりをくらうことがありません。アルバムタイトルに「KOKOLO」とあるように、本作を聴き終えるころには感動とともに満ち足りた気分になっている自分に気がつきます。8曲目などでは、タイム感をもっと磨けば、彼女のピアノはさらに素晴らしくなるのではないかなと思いました。
それから、ドラマーのFRANCESCO PASTACALDIには個人的にちょっと注目です。スネアのアクセントといい、小気味良い音で決まるリムショットといい、その他いろんな点でこの人は実に私好みの演奏をしてくれるのです。またベースのHUGO CECHOSZもなかなか良いですね。アルコ奏法も何曲かで披露しています。

余談ですが、このアルバムは、私が生まれて初めて自分で買った邦人作品ということになります。日本人がリーダーのアルバムなので、本来ですとカテゴリは“その他のジャズ”になるのですが、ジャズの本場パリを活動の拠点に選んだ彼女に敬意を表し、本作を“フランスのジャズ”に入れました。

それから!
いつも美形女流ジャズピアニストの演奏ばかり聴いて鼻の下伸ばして喜んでいるオジサマがた。そう、ア・ナ・タのことですぞ。 EMIKO MINAKUCHIには作曲の才能がありますし、ジャズピアニストとしても大きな可能性を秘めているのではないかと私は思っています。次の作品がリリースされたら、私は迷わず購入いたしますよ。フランスで頑張る日本人女性がリーダーの、爽やかで詩情豊かなピアノトリオ、いかがですか?

御用とお急ぎでないかたはEMIKO MINAKUCHIのホームページをぜひご覧ください。バイオグラフィーは日本語で読むことが出来ます。全曲試聴も出来ますよ。
             http://emikotrio.free.fr/fr/

*どうでもいいオマケ
ふっふっふ...。EMIKO MINAKUCHIは、実は唸るピアニストだったということが分かって嬉しい(笑)
  1.「ユニゾってますね」的唸り声:ちゃんとピアノの演奏とユニゾンになっている唸り声。
  2.「ご機嫌ですね」的唸り声 : 本人はきっとユニゾンのつもりだが、
    実際にはぶら下がっていたり大きく音が外れている唸り声。
  3.「もしもし、悪夢にうなされてますか?」的唸り声 : ピアノの音とは全くかけ離れた、
    悪夢にうなされているかのような唸り声。
  4.「救急車呼びましょか!?」的唸り声 : 明らかに尋常ではなく、一刻を争う場合の唸り声。
彼女はレベル2.と3.の間ですね。やはり唸るピアニストってエエもんですなあ~♪
唸るピアニストばんざーい!そして、パリで活躍するEMIKO MINAKUCHI、頑張れー!!

■EMIKO MINAKUCHI TRIO / KOKOLO (Musica Guild MG 0514)
EMIKO MINAKUCHI (p)
HUGO CECHOSZ (b)
FRANCESCO PASTACALDI (ds)
入手先:キャットフィッシュレコード(通販)