STEPHANE HUCHARD / BOUCHABOUCHES | 晴れ時々ジャズ

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日々の雑感とともに、フランスを中心に最新の欧州ジャズについて書いています。

STEPHANE HUCHARDのリーダー作は、なぜかいつも造語のような、オマジナイの言葉みたいなヘンテコリンなタイトルです。辞書引いても意味は明確に分かりませんが、それがかえって想像力を刺激させられます。1作目がTRIBAL TRAQUENARD、2作目がTOUTAKOOSTICKS(←これ傑作です)、そして2005年6月録音、同年リリースの本作はBOUCHABOUCHESという、これまたケッタイなタイトル。で、予想以上の素晴らしい作品に仕上がっています。

父親がメトロ(パリの地下鉄)の運転士をしていたことがあるとのことで、STEPHANE HUCHARDが(子供の頃に?)魅了されたというメトロの様々な騒音のサンプル、例えばレールと車輪がこすれ合う時のキーキーいう音、駅構内のメロディアスなざわめきの中に響く人々の足音、使い古されたエスカレーターの運転音に呼応するかのように(電車の?)スライドドアがたてる鋭い開閉音、人の話し声、電車が駅構内へ滑り込んでくる音、空気圧のシューシューいう音(?)などを、リズムトラックとして、あるいは効果音的に多用しています。

ということで、本作のテーマは“メトロ”です。12曲のうち11曲がSTEPHANE HUCHARDの作曲とアレンジで、ラストの1曲だけが4人の共作。16ビートなどが中心のかっこいいフュージョンで、楽曲の素晴らしさはもちろんのこと演奏もハイレベル。ワンホーンカルテットを主体にゲストも加わります。生楽器と電気楽器による緻密なアンサンブルに、サンプリングされた地下鉄の様々な音を巧妙に配し、それらが一体となって近未来的、幾何学的、メタリックなサウンドが生まれています。聴き手のアナタがちょっと想像力を働かせれば、メトロという、いわば地上とつながってはいるけれど隔絶された不思議な地下世界(異界)へと誘われるようなトリップ感覚が味わえるかもしれませんよ。

サイドメンを見てみますと、まず、凄腕のERIC LEGNINI(1970年、2月20日、ベルギー生まれ)は、本作ではクラヴィネット、フェンダーローズ、ウーリッツァーといったエレクトリックピアノを駆使していて、アコースティックピアノを演奏しているのは1曲だけなのですが、これは作品の趣向に統一感を持たせるためなのでしょう。
ALEXANDRE TASSEL(1975年、フランスのアンジェ生まれ)は、18歳のときにそれまでのピアノを止めて、以後トランペットとフリューゲルホルンを独学でマスターした人。25歳の時にGUILLAUME NATUREL(ts)と双頭で、FRANCK AVITABILE(p)、GILDAS SCOUARNEC(b)、ANDRE CECCARELLI(ds)が加わるTHE PARIS JAZZ QUINTET / ST (TCB)というオリジナル曲だけで構成されたハードバップの良盤を2000年にリリースしており、私はALEXANDRE TASSELの演奏についてはそれぐらいしか知りませんが、本作では彼のフリューゲルホルンがフロントとして、またアルバムの印象を創りあげるうえでも大きく貢献しているのではと思います。
LAURENT VERNEREYは初めて名前を聞くベーシストですが、演奏は良いです。
ゲスト陣のRICK MARGITZA(1961年10月24日、ミシガン州、デトロイト生まれ)は2曲に参加。OLIVIER LOUVELは6曲に参加していますが、私にはブズーキとサズの聴き分けが出来ないのが悲しい(T_T) 1曲だけに参加しているANDRE MINVIELLEはいったい何者?HPを見てもいまひとつよく分からなかったのです(^_^;)
お気に入りの曲について簡単に書きます。
2曲目のRUSHは力強い疾走感がみなぎるハードボイルドでかっこいい曲。演奏に様々なサンプルを効果的に組み込んで一種独特の雰囲気を醸し出しているのは本作のどの曲にも共通して言えることです。クールなフリューゲルホルンが印象的。
3曲目のJAZZY DANS L'METROは、生ドラムとサンプル音源を巧みに組み合わせることにより、タイトなリズムとグルーヴ感を生み出しているのが面白い。ERIC LEGNINIのアコースティックピアノはこの曲だけで聴くことが出来るのですが、やはり生のピアノはええわ~。だって、プレイヤーの唸り声が聴こえるんやもーん!(←演奏中の空気感やプレイヤーの気配のようなものを感じるのが好き)
7曲目のRAGGA RAPTは、チューニングを極端に低くしたようなタムの音色が面白い。ANDRE MINVIELLEが披露するのはスキャットやヒップホップふうの奇妙で楽しいヴォーカリーズ。シューッとか、ヒューッとか、ピュルピュルというヘンテコリンな効果音も入ってユーモラス。
STEPHANE HUCHARDのドラミングは大変に手数が多くエネルギッシュで、その切れ味の鋭さはまるでカミソリのよう。バスドラの使用頻度も高く、曲によっては時にドラムンベースのようになったりもします。むっちゃ手数が多いのに、ちっともうるさく感じないどころか演奏にどんどんのめり込んで行く自分に気づきます。で、忘れてならないのは、彼は作曲の腕とアレンジのセンスの素晴らしさが並大抵ではないということ。ハードでかっこいいハイテンションの曲だけでなく、胸キュンな美メロ曲も任せとけ!の頼もしさ。そういう意味でも本作の出来は素晴らしいですし、表現者としてのSTEPHANE HUCHARDのドラミングを堪能するには格好の一枚なのではないでしょうか。トータルで70分を超えますが、退屈とは無縁の聴き応えのある一枚です。
不思議で騒々しくて、ちょっぴり奇妙で神秘的な“メトロ”の世界へようこそ!

御用とお急ぎでないかたはSTEPHANE HUCHARDの↓HPをご覧ください。
             http://www.stephane-huchard.com/
ALEXANDRE TASSELのHPは↓こちらです。
             http://altassel.free.fr/HOME.html
謎のヴォーカリストANDRE MINVIELLEの↓HP。
             http://www.larticole.org/
RICK MARGITZAのことは↓こちらで。
             http://www.moutin.com/rickm.html
OLIVIER LOUVELのHPは↓こちら。
             http://olivierlouvel.free.fr/

■STEPHANE HUCHARD / BOUCHABOUCHES (Nocturne NTCD 384)
ERIC LEGNINI (clavinet, Fender Rhodes, Wurlitzer and acoustick piano)
ALEXANDRE TASSEL (flh)
LAURENT VERNEREY (b)
STEPHANE HUCHARD (ds)

guests
ANDRE MINVIELLE (vo)
RICK MARGITZA (ts)
OLIVIER LOUVEL (bouzouki, saz, acoustick, electrick and fretless guitar)
入手先:キャットフィッシュレコード(通販)