ERIC LEGNINI TRIO / MISS SOUL | 晴れ時々ジャズ

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日々の雑感とともに、フランスを中心に最新の欧州ジャズについて書いています。

ついに出ました、ERIC LEGNINI(1970年、2月20日、ベルギー生まれ)のリーダー作!もう10年以上出ていなかったのではないでしょうか。STEFANO DI BATTISTA、DANIELE SCANNAPIECO、STEPHANE BELMOND、DANIEL MILLE等のアルバムに参加していたので、ブランクは感じなかったものの、リリースは待ち遠しかったです。
ERIC LEGNINIの5枚目となる本作は、ベースがROSARIO BONACCORSO(1957年、イタリア生まれ)、ドラムスがFRANCK AGULHON(フランス)で、このトリオの演奏は素晴らしいです。3曲だけMATHIAS ALLAMANE(詳細不明)というベーシストが代わって演奏しています。

12曲のうち、ERIC LEGNINIのオリジナルは5曲。1930年代スタンダードからブルース、ゴスペル、60年代ソウル(R&B)、典型的イタリアのメロディー、さらにはBJORKといったPOPなものまで、いろんな音楽がつまっていますが散漫な印象になっておらず、ちゃんと作品としてまとまっているのはさすがです。
優等生的なところやとんがったところは全くなく、分かりやすくて聴きやすいですし、溌剌とした演奏にはユーモアさえ感じられて、これを聴いている最中、もう楽しくて楽しくて「アハハッ!」と何度も笑ってしまったほどです。きっと、レコーディングの最中は凄く面白くて楽しかったのでしょう。その楽しさが聴き手にも直接伝わってくるような作品です。
良い意味で予想を裏切ってくれたという感じがするのは、ERIC LEGNINIがもともと持っていた一面(あとで述べます)が作品に色濃く出ているからだと思われます。

おおっ、冒頭のオリジナル曲、THE MEMPHIS DUDEの1小節目を聴いたとたんに分かってしまうその違い。まず、気合が違います、気合が!痛快そのもの。リズム感抜群。ERIC LEGNINIの一音一音に気迫の漲る生き生きとした演奏は、並みのジャズピアニストが太刀打ち出来るものではありません。MATHIAS ALLAMANEというベーシストは初めて演奏を聴くのですが、悪くありません。

3曲目のオリジナル、HOME SWEET SOULの導入部はゴスペルですし、テーマは60年代のロックンロールあるいはソウルやR&Bの匂いもしますが、ピアノのアドリブはカッコええです。ROSARIO BONACCORSOって、これほど唸るベーシストではなかったと思うのですが、それにしてもリーダーに遠慮するっちゅうことを知らんのでしょうか、この人は?(笑)アルバムの全編にわたって、そらもうご機嫌で唸りまくっておるんですね。でも、骨太のベースは音が良いので演奏に文句はありません。ジャズって、こういうのがあるから楽しいなっ!

5曲目は、アイスランドの歌姫BJORKのJOGAという曲。BJORKのアルバムは1作目から5枚ほど持っていて、私も好きなのですが、ジャズでBJORKを演奏するのが最近流行っているんですか?オリジナルのメロディーを生かした演奏ですがアドリブは聴き物です。FRANCK AGULHONのドラミングもなかなかです。ROSARIOさんはここでもご機嫌で唸っているのですが、その唸り声に演歌入っててこぶし回ってるのが可笑しいのなんのって!(笑)

6曲目のオリジナル、HORACE VORACEはダイナミックにドライヴするノリの良さが気持ちいい。ERICさんとROSARIOさんの唸り合いも興を添えていて面白い。

7曲目のオリジナルはLA STRADAはイタリアンムードです。ERICさんの左手がズチャーチャ、ズチャーチャっていうところなんかは、まるでJEAN-PIERRE COMO(p)が乗り移ってるみたいです(褒めてるつもり)。

8曲目のオリジナルでタイトル曲のMISS SOULは、R&Bやロックンロールのフィーリングで、ノリの良い8ビート。コードを次々に変化させながらアドリブを展開するところが聴き応えあります。

9曲目、CLIFFORD BROWN作曲のDAAHOUDは、(HORACE SILVERの作曲したSAINT VITUS DANCEという曲にそっくりなんですが、気のせいでしょうか???)即興に入ったとたんにテンポがどんどん速くなって行き、強烈にスウィングしているのがなんとも凄い!エキサイティングです。

11曲目、PHINEAS NEWBORN JRのBACK HOMEはブルースだっ!。ERICさん唸り、ROSARIOさんも負けじと唸る。が、ROSARIOさんがERICさんと違って偉いのは、ベースソロに入るとその唸り声が正統派スキャットになってるところ!いや~、びっくりしたー(笑)

歌ものスタンダードの4曲目FOR ALL WE KNOWと10曲目PRELUDE TO A KISSでは、素朴ともいえる素直な表現が心温まり、しばしほんわかムードに浸れます。で、ERICとROSARIOのお二人さん、まさかバラードでは唸ってへんやろね?と思ったら、ちゃ~んと唸ってるんですな、これが!演奏しててよっぽど気持ち良かったんやね、きっと。と思ったしだいです。

最後の曲が終わっても隠しトラックがあるので、そのまま1分ほど待ちましょう。演奏の途中でプッツリと切れてしまっているのにはちゃんと理由があります。これは7曲目LA STRADAのイントロとして作られたもので、あとで余分だと気づいて割愛したものの、気に入っていたので隠しトラックとしてアルバムの最後に入れたんだそうですよ。

さて、ERIC LEGNINIの母親がプロの歌手であったことから、彼はバッハやプッチーニを聴いて育ったらしいのですが、いっぽうで母親は黒人霊歌の愛好家でもあったということです。そういった母親の趣味に影響されたので、彼はソウルの女王ARETHA FRANKLINやROBERTA FLACKのファンになったそうです。彼はまた、イタリア映画音楽の巨匠NINO ROTAを尊敬し、HORACE SILVERを尊敬しているのだそうです。BJORKの歌も好きだということですよ。本作は良い意味で私の予想を裏切ってくれたという感じがすると最初に述べましたが、これには、このような理由があったのですね。
シリアスでとんがったジャズを真剣に聴くのもいいけれど、いつもそればかりだとたまには楽しいジャズも聴きたくなるというものです。演奏が申し分なく素晴らしくて、ちょっぴりノスタルジックな雰囲気でありながら、洗練されており、プレイヤーが演奏を楽しんでいるのが聴き手に直接伝わってきて自分も楽しくなれるような作品。こういうのは、ありそうでなかなかないと思います。そういう意味でも本作は貴重な一枚なのではないでしょうか。

*オマケその1.(これはぜひ読みましょう)
STEFANO DI BATTISTAがブルーノート東京で5月1日~3日に公演するのですが、そのメンバーに、なんとERIC LEGNINIとFRANCK AGULHONとROSARIO BONACCORSOの3人がいます!
行きたい、行きたいっ!行きたいのはやまやまですが、この日は都合が悪いので残念ながら私は行けそうにありません(T_T)

*オマケその2.(これは読まなくてもいいです)
え~、ここでちょっとジャズピアニストたちの唸り声をおさらいしておきましょう。
  1.「ユニゾってますね」的唸り声:ちゃんとピアノの演奏とユニゾンになっている唸り声。
  2.「ご機嫌ですね」的唸り声 : 本人はきっとユニゾンのつもりだが、
    実際にはぶら下がっていたり大きく音が外れている唸り声。
  3.「もしもし、悪夢にうなされてますか?」的唸り声 : ピアノの音とは全くかけ離れた、
    悪夢にうなされているかのような唸り声。
  4.「救急車呼びましょか!?」的唸り声 : 明らかに尋常ではなく、一刻を争う場合の唸り声。
ERIC LEGNINIの唸り声はレベル3.です。このアルバムでもいつもの調子で唸っておりますね。ところが、本作ではROSARIO BONACCORSOの唸り声のほうがリーダーよりも目立ってしまった(;^_^A しかも、ROSARIOさんの場合はリーダーとは違ってちゃんとユニゾンになっていて、ときにはスキャットまで披露しちゃうし、それがまたべらぼうに上手いときている。ベースがポルタメントのときは唸り声もちゃんとポルタメントになっているという芸の細かさです。本作をきっかけに、ベースも達者だが唸り声もピカイチ(?)のROSARIO BONACCORSOが大好きになってしまいました(^◇^)

■ERIC LEGNINI TRIO / MISS SOUL (Label Bleu LBLC 6686)
ERIC LEGNINI (p)
ROSARIO BONACCORSO (b)(3、4、5、6、7、8、9、10、11)
FRANCK AGULHON (ds)
MATHIAS ALLAMANE (b)(1、2、12)
入手先:キャットフィッシュレコード(通販)