ブックオフの最高益とクインの視点:利益をもたらす本以外の売上増と店舗閉鎖の痛み

過去最高売上を記録したブックオフ
ブックオフが5月期決算で過去最高の売上高を記録しました。
古本を中心とする中古品販売店として知られるブックオフですが、現在の事業は、かつてのイメージだけでは捉えきれません。今回の過去最高売上というニュースを理解するには、売上高という数字だけでなく、その内側で何が変わってきたのかを見る必要があります。
ブックオフは、従来の事業を維持しながら、取り扱う商品や買取の仕組みを変えてきました。その変化をたどると、今回の業績がどのような事業の変革と結びついているのかが見えてきます。

「本」の会社から、商品構成を変える⚡⚡
現在も、ブックオフの商品構成では、本・音楽・ゲームの現物ソフトが4割超を占めています。従来の主力商品が、今なお事業の重要な部分を担っていることに変わりはありません。
一方で、アパレル、トレーディングカード、ホビー、ブランド品などの商品が過半を占めるようになっています。つまり、従来の主力商品を扱い続けながら、事業全体を構成する商品群は大きく変化しているのです。
この変化は、単に店頭に並ぶ商品の種類が増えたというだけではありません。商品ごとに査定で必要となる知識は異なりますし、市場での価値や需要の動きも同じではありません。取り扱う商品が広がれば、それに応じて買い取りや査定、販売を支える仕組みも変わっていきます。
ブックオフは、こうして「本」を中心とした事業から、より幅広い中古商品を扱う事業へと変化してきました。今回の過去最高売上を考えるうえで、まず押さえておきたいのは、この商品構成の変化です。

買取の接点も広がり始めている
商品構成の変化に加え、買取の仕組みにも新たな動きが見られます。
8月からは、ファミリーマートに商品を持ち込むことで、ブックオフの買取を利用できる取り組みが始まりました。⚡⚡
従来、ブックオフで商品を売るには、店舗に商品を持ち込むことが基本的な接点でした。今回の取り組みは、ファミリーマートを通じて買取を利用できるようにするものです。利用者にとっては、商品を売るための接点が広がることになります。
取り扱う商品を広げることと、商品を買い取るための接点を広げること。ブックオフでは、こうした変化が進んでいます。

戦略は、最初から完成しているわけではない
ブックオフが「本」を中心とした事業から脱却し、過去最高売上を達成した。その背景を考えるうえで参考になるのが、ジェームズ・クインの「論理的増分プロセス」という考え方です。⚡⚡
クインは、優れた戦略決定は、事前に完成された完璧な「大計画」に沿って進むとは限らないと考えました。経営者が一定の方向性を示しながら、環境の変化や試行錯誤から学び、その学習を通じて戦略を練り上げていく。これが論理的増分プロセスの基本的な考え方です。⚡⚡
この視点からブックオフの歩みを見ると、商品構成の変化は、戦略が実際の事業活動を通じて形になっていく過程として捉えられます。
最初からすべての変化を盛り込んだ完璧な計画があったというよりも、経営の方向性を保ちながら、取り扱う商品や買取の方法を変えていく。その積み重ねによって、従来の「本」の会社という枠組みを超えた事業が形づくられてきたのです。
ブックオフが過去最高売上を達成した最大の要因は、まさに、この論理的増分プロセスにあると考えられます。

成果に満足せず、学習を続けるために
論理的増分プロセスが重要なのは、戦略が一度決まれば終わりという考え方を取らない点にあります。環境が変化し、試行錯誤から新たな知見が得られれば、それを次の戦略に反映させていく必要があります。
そのため、ブックオフにとっての処方箋は、過去最高売上という成果に満足せず、さらなる変化への対応を続けることです。
具体的な方法の一つは、失敗しても大きな痛手にならない規模の小規模テストを、常時複数走らせることです。大規模な計画を一度に実行するのではなく、小さな取り組みを複数試し、その結果から学ぶ。こうした方法であれば、試行錯誤を続けながら、次の戦略を練り上げていくことができます。
もう一つは、現場の情報を本部の意思決定に結びつける仕組みを強化することです。
査定スタッフは、日々の商品査定を通じて、最新の偽物情報や地域ごとの需要変化に接しています。こうした情報は、実際の商品の動きに触れている現場だからこそ得られるものです。
そこで、現場の査定スタッフが得た情報をAIと組み合わせ、本部のデータベースへ即座に統合する仕組みを強化する。現場で生まれた知見を、組織全体で利用できる情報へと変えていくわけです。
小規模なテストを通じた学習と、現場の情報を迅速に集約する仕組み。この二つを強化することが、さらなる変化への対応につながります。
店舗数の減少と、大型総合型への転換
一方、ブックオフの変化を見るうえでは、店舗にも目を向ける必要があります。
ピーク時に1,100店あった店舗数は、現在700店に減少しています⚡⚡
また、この6年間で、標準型の店舗(130坪)と複合型の店舗(300坪)を減らし、大型総合型の店舗(950坪)を増やしてきました。⚡⚡
ここでは、店舗数の減少と店舗形態の転換という二つの変化が同時に起きています。
店舗数だけを見れば、ピーク時と比べて規模が縮小しています。しかし、店舗の種類に目を向けると、標準型や複合型を減らす一方で、大型総合型を増やすという再編も進んでいます。
商品構成が変化してきたブックオフにおいて、店舗網もまた、以前と同じ形を維持しているわけではありません。店舗数を減らしながら、店舗の規模や形態を変えていく。これも、ブックオフが進めてきた改革の一部です。

改革の成果と、その背後にある従業員の生活
直営店とフランチャイズ店は、ほぼ半々です。
そして、それぞれの店舗には従業員がいて、その生活があります。⚡⚡
店舗数の減少や店舗形態の転換は、企業の数字だけに関わるものではありません。店舗を運営する人々の働き方や生活にも関係する変化です。⚡⚡
それでも、ブックオフは商品構成を変え、店舗網を再編し、事業のあり方を変えてきました。⚡⚡
今回の過去最高売上という成果は、そうした改革を断行してきたからこそ得られたものです。⚡⚡

あとがき
ブックオフの過去最高売上を、売上高という数字だけで見るのか。それとも、商品構成や買取の仕組み、店舗網が変化してきた過程と合わせて見るのか。
同じニュースでも、その背後にある変化を追うことで、企業の戦略がどのように形づくられてきたのかが見えてきます。