この原稿は本来、前回の「喪失と再生、そして希望の歌」の追記として書く予定のものだった。聖子に関わりはあるが、聖子ではない歌い手についての記述だからだ。
だが、うっかり忘れて本編のみでアップしてしまったので、単独の原稿という形になった。
自分としてはどうしても書いておきたいものだったからに他ならない。
昨年暮れから今年初めにかけて、二週間ほど生まれ故郷の町に滞在した。こんなに長く滞在したのは学生時代以来だった。その滞在の終盤、不幸があり、滞在予定を数日伸ばすことにした。
翌日、なじみのライブハウスを訪ねた。5月に開催予定の公演の件の打ち合わせも兼ねて、挨拶に行ったのだ。
その店でランチを食べながら、流れていた女性ボーカルに耳を傾けていた。
小さな手のひらに固く握りしめた
あの子にもらった線香花火が雨に濡れている
山の向こう町に瞬く稲妻が
私を連れ去り二度と戻れぬようで
小さく息を吸った
まっすぐに気持ちに届く声、そしてメロディ。すぐにスタッフに歌い手の名前を聞いた。
「杉瀬陽子」。それが彼女の名前だった。
次の日も、その次の日も、お店にランチを食べに通った。そして、そのCDは毎日エンドレスで流れていた。この三日間で、その声がすっかり体に馴染んでしまった。
自宅に戻ってから、すぐにCDを注文した。そして、このシンガーについて色々調べているうちに、彼女が「sweet memories」をカバーしていることを知った。世の中に女性シンガーは山のように存在するが、聖子の曲をカバーしているのはほんのわずか。まさか聖子とつながる人だったとは。うれしい驚きだった。
たぶん彼女の音楽を聴くたびに、この特別だった2013年から14年への日々が蘇るのだろう。彼女を知った状況が特異だったことは確かだが、もしそういう状況でなかったとしても、この歌い手は、必ずどこかで心に留まったはずだと思う。
もしよければ、一度聴いてみて下さい 。