ジョルジ・ガゴ・ガゴシツェ

ヒト・シュタイエル

ミロス・トラキロヴィチ 《ミッション完了:ベランシージ》

 

バレンシアガ的な手法に関する3人によるプレゼンのような映像作品。青い部屋の中に、円形の会議室のような段があり、そこに座って鑑賞する。

部屋の隅には羽根や骨などが飾ってあるが、それらは映像を見れば理由が分かる。

バレンシアガはファッションに疎い人でも知っている有名なラグジュアリーブランドである。企業は客に売るために様々な手段を駆使しており、日本人的には陰謀論っぽくて本当にそうなのかと思うかもしれないが、彼らは巧妙に利益を得続けているのは確かである。

少々長いのと、字幕を読みながらだと1回では理解し難いかもしれない。

 

 

木浦奈津子

 

彼女は写真から絵を描くという。

どこにでもありそうだが、なさそうでもある風景である。

当たり前かもしれないが、構図的に写真だなあと思う。

 

写実的に上手く描いても普通の景色はどこまでいっても普通で面白くはない。この絵のように抽象化すると、観る人の出身地を問わず、どこにでも見られる風景として見えてくる。

人には美しいと思える構図のパターンのようなものがあり、何か普遍性のものがあるのかもしれない。

 

 

ティナ・エングホフ<心当たりあるご親族へ>

 

デンマークでは身寄りがなく亡くなった方が新聞に載るそうである。作者は、その方の部屋や病室を撮影している。

整然とした部屋もあれば、美しく装飾がされている華やかな部屋もあれば、散らかって雑然とした部屋もある。

 

部屋の主が亡くなっていると知ると、もの悲しさ、悲惨さ、孤独を感じてしまうのだが、実際にはどうなのかは分からない。独りでも楽しい人も居るし、多くの人に囲まれて賑やかに過ごすのが幸せだというイメージをすべての人に当てはめるのは正しくはない。

 

デンマークは福祉国家として老後の生活が保障されているので、日々の生活を心配しなくても良いのは生物としては幸せであると言える。

ただ、それが生きているだけであるなら面白味はない。

生活が保障されているのなら、能動的に社会と関わって生きていくことを自分なら選びたいだろうと思う。

社会と距離を取って生きることは可能であるが、孤立するのは変化がなくて面白くないと個人的には思う。

 

 

地主麻衣子《遠いデュエット》

 

既に亡くなった詩人ボラーニョの墓参りというか足跡を辿って、他の文化との違いを探していくような映像作品。

悪魔の穴と恐れられる穴に落ちた子供を助けに行くかどうかについて語ることに多くの時間を割いている。

作者は、日本人はなかったことにすると言うが、インタビューする外国人女性は、質問の意味に困惑しながら、無視はしないが、穴の周りを取り囲んでそれがあることを示すという。

国や地域、民族によって考え方は違うはずだし、個人でも違う。

意味のすれ違いが感じられるし、簡単には他の文化の理解はできないということか。何かのメタファーがあると思うのだが、自分の中で消化しきれていない。

 

 

シュ・ビン《とんぼの眼》

 

中国国内に張り巡らされている監視カメラ・防犯カメラ映像を繋ぎ合わせ、セリフを後付けすることによって映画を作るという映像作品。

 

発想は面白いが、防犯カメラの画像だからなあ~と思っていたが、実際のところうまく繋がっていてちゃんと映画になっている。

もちろん、画質は悪いし、おかしなところはあるが、それはワザと分かるようにしているように思える。セリフと映像が不思議とリンクしているのが面白い。

 

ストーリーとしては男女のラブストーリーというか、すれ違いというか、不器用な男女の物語であり、監視社会という問題ももちろんあるが、社会問題も含まれている。

美術館で観るのは長いのだが、映画として楽しめる面もある。

これを映画として構成するのはかなり時間と手間が掛かっただろう。

 

私は時間がなくて最初は観ていないのだが、日を改めてこの作品を観に行った。朝から晩まで居るつもりでないと、他の作家の映像作品もあるし、全部を観ることはできないので、十分に時間を取って欲しい。

 

 

総括的なことを書くのには難しいのだが、現代の距離という側面は感じられた。

 

インターネットは世界に張り巡らされ、地理的に遠い世界中の人々が容易に接触できるが、もちろん国家などによって情報を監視されている。

それを支えている人が居る。

SNSなどで楽しく交流できる良い面もあるが、時として炎上して攻撃に晒される。

AIがこれからどんな成長を見せてくれるのか期待と不安がある。

リアルとネットは相互作用している。

巨大企業は利益を生むためにグローバルにあらゆる手段で搾取している。

ありふれた風景も抽象化すると誰にでも親近感を覚える風景となり得る。

生活は保障されても社会と孤立することは良いのか悪いのか。

異文化を理解することは誤解を繰り返さないと分かり合うのは難しい。

映画が作れるほどの情報が得られる監視社会をどう感じるのか。

 

まとめるのが難しいが、これからの世界は状況の変化がこれまでよりも加速していくのは確実であり、それについて行くのはしんどいことである。

一部の人にとっては利益をもたらす変化かもしれないが、多くの人にとっては辛い時代となるかもしれない。

お上に任せておけば上手くやってくれると思っている多くの日本人にとっては辛い時代になるのではないかと危惧する。

 

考えるヒントとして観てみることをお勧めする。

9月1日まで。