
ビル・パーキンス/著、児島修/訳 「DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール」読了
この本、「ゼロで死ね」とタイトルだが、ちょうどお金を使い果たして収支ゼロで死ぬという理想を語っているのではない。「ゼロで死ぬ」という目標を持つことで、人生を充実させようという意識が働くようになる。『何も考えずに働き、貯蓄し、できるだけ資産を増やそうとしていたこれまでの人生を変え、できる限り最高の人生を送れるようになる。』というのである。
その真意は、稼いだお金を有効に使うことで老後の最後の頃を思い出と共に幸せに過ごせるということだ。
著者はアメリカで成功した投資家であるが、自分の生き方に芯を持っていてきちんと資産を築いた人たちは同じことを考えるのか、以前に出会った弁護士の先生も同じ事をおっしゃっていたということを思い出した。もちろん、僕だって同じことを思っているし、世の中の人も同じ事を思っているに違いないが、将来の不安や備えのためにその時にやりたいこと、やってみたいことを我慢して貯蓄に回している。そして気がつけばそのお金を使いたくても体力も気力も無くなり結局、そのお金を残したまま死んでいくのである。著者はそういう生き方に何の意味があるのか考え直せと言っているのである。
そうならないために、自分の人生の中で何があれば幸せか、そのために必要な資金かどれくらいなのか、そして、それをするベストな年齢はいつなのかを考えて、その時に実行できるよう計画を立てるべきであるという。そのためにこの本に書かれている、『ルール』に従って人生を見直してほしいというのである。著者は相当な資産家であるが、やりたいこととそれに必要な資金はリンクしているわけではない。収入に合った方法でそれを実現すればよいのだとも言う。
自分のことを思い返せば、この本の通り、今やっておかねば後悔すると思ったことはいくらでもあったかもしれない。しかし、今、貯金をしておかなければこの先が心配だという考えがいつも先にあった。その時に自分の資産と照らし合わせて可能な限りお金を使って思い出づくりをすべきであったのだろうが、自分たちの資産額の少なさに気付いてしまって将来への不安を増殖させてしまうことが怖かった。
とりあえず、今ある資産の額を真剣に知ろうとしたのは定年を前にしたときであった。それまでの不安をよそに、これだけあればつつましく生活をしている限りなんとか逃げ切れるのではないかと思う額が残っていることを知って初めて心を落ち着かせた。
それならさっさと仕事を辞めてつつましいながらもやりたいことをやって残りの人生を生きてゆけばよい。幸いにして半径15kmから出たくない性格なのだからおのずからつつましい生活になってしまうのだからやりがいも何もない仕事を続けることもないのだ。しかし、著者のいう、『単に働くことが習慣になっている』という地獄とジレンマに陥ってしまっているのだ。
Nさんは60歳の定年を機にすっぱり仕事を辞めて、傍から見ていてもやりたいことをやって生きておられるように見える。一度、「不安はなかったのですか?」と聞いたことがあるが、「自分は十分働いたのだからこれからはやりたいことをやるのだ。」と奥さんにも宣言して自由な生活に入ったとおっしゃっていた。釣りや磯遊びをしながら、民生委員をやり、草刈りをやり、時々地域の困りごとなどを解決したりと適度に社会貢献しながら楽しく生きているように見える。
森に暮らすひまんじんさんも、別荘に暮らし、二拠点生活をしながら野山を舞台にやりたいことをしながら生きてこられた。
そういう、理想のお手本が目の前にありながら僕はそれに倣うことができない・・。
この本によると、資産を取り崩しながらやりたいことができる最後のチャンスが60歳だという。これを逃すとお金と時間があっても体力と気力がついてゆかなくなるという。
今の仕事は楽なものだが、片道2時間もかけてまでやるべき価値のある仕事でもないのは確かだ。この本を読んでいると、そろそろ方向転換すべきではないかと思うようになってきた。
しかし、結局のところ、決断力のない僕はずるずると悪しき習慣としてこのまま働くことを続けることになるのに違いないが、目下のところ、故障した船外機をどうするかという問題を解決しなければならない。
修理ができたとして、僕が想定している自分の釣り人生の残り10年を乗り続けることができないかもしれない。修理ばかりでどんどんお金を使うならいっそ新品を買うというのがこの本の趣旨に沿うのかもしれないが、かといってそれによって新しい経験が増えてゆくわけではない。今までと同じ経験が続いてゆくだけである。しかし、このまま何もしないとその同じ経験の機会さえも失うことになってしまう。ここ数日、そういう考えが堂々巡りをしている。著者曰く、リスクを冒して決断することが悔いのない人生を送ることができるための必要条件だそうだが、何でも堂々巡りをさせてしまう僕はやっぱり悔いを残したまま死んでゆくしかないのかもしれない。
この本のところどころには箴言というようなフレーズが現れてくる。最後にそれらを列挙しておこうと思う。僕の感想よりもよほどこの本の意図がよくわかると思う。
『人生でしなければならない一番大切な仕事は、思い出づくりです。最後に残るのは、結局それだけなのですから。』
『あなたが誰であるかは、毎日、毎週、毎月、毎年、さらには一生に一度の経験の合計によって決まる。最後に振り返ったとき、その合計された経験の豊かさが、どれだけ充実した人生を送ったかを測る物差しになる。』
『長期的に計画を立てて行動するより、短期的な報酬(近視眼的)のために生きたり、自動運転モード(慣性的)で生きる方が楽だからである。』
『だが、残念なことに、私たちは喜びを先送りすぎている。手遅れになるまでにやりたいことを我慢し、ただただ金を節約する。』
『不合理な不安を抱いているひとたちは、今しかできない経験のために使える金を、無駄にため込んでいる人である。』
『金を無駄にするのを恐れて機会を逃すのはナンセンスだ。』
『大切なのは、自分が何をすれば幸せになるかを知り、その経験に惜しまず金を使うことだ。
単に働くことが習慣になっていただけなのだ。』
『なんとなく必要以上の金を貯め込んでいるか、必要なだけ溜めていないかのどちらかだ。』
『老後のための貯蓄は、ほとんど使わずに終わる。』
『金、健康、時間のバランスが人生の満足度を高める。』