関山健 「気候紛争 たった「2℃」が起こす戦争」読了
本の表紙の折り返し部分には、『2050年、「たった2℃」の気温上昇で戦争が激増するーーー。「気候紛争」とは気候変動が遠因となって起きる騒乱、暴動、内戦さらには国家間対立の総称である。』と書かれているが、著者はどうしても気候変動が世界中で騒乱や、暴動、内乱を引き起こす原因になるのだと言いたいらしい。
タイトルを見て、気候変動による食糧危機が地政学リスクを呼び国際紛争が戦争というものにまで拡大しひいては文明を崩壊させ北斗の拳の世界がリアルに出現するというシナリオを語ってくれるのかと思ったらまったく違っていた。(僕は、食べ物がないということが秩序を乱す一番の原因になると思っている。)まあ、新書でそんなオカルトなのかSFなのかのようなバカ話が出版されるということもないのであろうが・・。
結論を書くと、そういった動乱の可能性は気候変動によってほんの少し拡大したり勃発の頻度が増えるかもしれないが、根本的な要因となることはなく、むしろ、政治の不安定さや宗教対立などのほうがよほどリスクを孕んでいて、ある程度政治や社会が安定していて気候変動に対応できる技術力と資金力を持つような国ではそういったことは起こらないであろうという、僕たちの円卓会議でもそういう答えを導き出すであろうというものであった。
まさに「新書あるある」の新書なのである。この本に頻繁に出てくる「気候紛争」、「気候安全保障」という言葉も著者の造語らしい。
唯一、確かにこれは日本の安全保障に関わる気候問題だと思ったのは、沖ノ鳥島と北極海についての記述だ。
沖ノ鳥島には東小島、北小島というふたつの島があるそうだが、それぞれ満潮時で6cmと16cmしかない。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第6次評価報告では2006年~2018年の間だけで年に3.2mm~4.2mmも海面が上昇したということだ。2℃の温暖化では日本沿岸の海水面は現在よりも40cmほど上昇すると言われているのでこのふたつの島は間違いなく島では無くなる。そうなると、日本の国土面積よりも大きい40万㎢の排他的経済水域が失われるのである。
2025年に国際司法裁判所が公表した「気候変動に関する勧告意見」では、既存の海岸線、領海、排他的経済水域を気候変動による海面上昇の影響を加味して変更する必要はないとの見解を示しているが、すでに中国や韓国、ロシアはそれに反対している。特に中国はそんなことお構いなしに漁業資源や海底資源を盗みにやってくるだろう。
そして北極海では温暖化で氷が溶け航路が常時開かれるようになると日本近海での中国とロシアの動きが活発になるということだから油断はできない。ロシアとアメリカは直接対峙することになる。トランプ大統領がグリーンランドを領土にしたいと言ったのもそういうことを見越してのことではなかったかというのが著者の見解である。こういう見解はさすが国際環境政治を専門のひとつにしている学者であるというところか。新書あるあるばかりではなかった。
それ以外は「新書あるある」なのであとは読み流すしかない。それでも何かトピックスとして書き残すものはないかと探してみるのだが、この本の主題である、「気候紛争」は気候変動によってどれくらいの確率で増加するのかということをまずは書いておこうと思う。これは統計学的な試算らしいが、干ばつによってある国への移民流入数が1%増加するとその移民送り出し国と受入れ国との武力紛争の発生確率は10年あたりで0.012%増加するらしい。インドでは降水量が1%減ると暴動が0.86%増加する傾向が見られたそうだ。実際にそういう計算をしている人がいるのにも驚かされるがその結果がその他の要因よりもはるかに小さいということを知った当の学者さんはもっと驚き悲しくなっただろう・・。
もうひとつ、これは主題とはあまり関係がなさそうだが、世界の軍事施設や軍隊が放出する二酸化炭素は世界全体の放出量の5%にもなるそうである。5%というのは結構な割合だと思うがそれくらい放出しないと世界の均衡を保つことができないというのがこの世界の現実なのだろう。
しかし、こういうことが続いて、食糧の価格がどんどん上がってゆき、先進国でも中間層でさえ食べるものの確保がままならなくなった時、それでも暴動や内乱が起こらないと言えるのだろうか・・。
過去を遡ると、国家間の戦争は別にして食べるものがないということが原因で起こった革命や内乱というのは相当あったはずだ。アメリカなんて銃社会だから食べ物を争って小さな撃ち合いが始まりそれが大きな暴動に発展して崩れ始めた秩序は雪崩を起こすように国内に広がってゆくかもしれない。今ではアメリカと対等に戦えるだろう中国が世界の覇権を狙ってアメリカに宣戦布告する・・。中国人は椅子と机以外の四つ足のものは何でも食べるというのだからアメリカ人よりしたたかだ。そんな可能性をぜひとも語ってほしかったのである。





























