精神疾患者続出のうちの職場は、10月が新入社員配属の季節。
希望を胸に4月に入社して来た若人達は、教育センターやら工場実習やら半年間あちこちたらい回しにされた挙句、ようやく配属先での仕事が始まるかと思いきや、もれなく問答無用で、地獄の一丁目一番地 "惡の華" 設計部門へと3年間送り込まれるシステムとなっている。
そして、今年も我が手元に何も知らない生きのいい子羊が一匹。
仕事中、大欠伸をした際に若手の育成になど微塵も興味のない上司とたまたま目が合ったせいで、俺が彼のペアコーチに無投票当選。また余計な仕事が一つ増えた。
俺の新人査定基準は極めて単純明快。
①礼儀正しさと、②質問ひとつ ― 「どこのメーカーのでもいい。好きなクルマは何?」
ここで、「車なんて別に動けば何でもいいんじゃないっスか?ぶっちゃけ 」 なんて回答をする奴は、その後3年間、正午のブザーが鳴るたび焼きそばパンを買いに行かされる。
「ブコビッチ(仮名)と言います!よろしくお願いします!」
会議から戻った俺を見つけるやサッと立ち上がり向こうから元気よく挨拶。ガードハローな白い歯キラリの笑顔が眩しい・・・ハイ、①クリア。残る関門はあとひとつ。
「好きなクルマですか?そうですね・・・やっぱベンツですかねずっとウチの親が2人とも乗ってて、自分も前に乗ってたんで」
ハイ、焼きそばパン決定おととい来やがれ、小僧
新入社員なのに、前に乗ってた?おベンツに? 意味が解りません。
もしかして、金持ちのボンボンなの?
「いえいえ、僕は全然。奨学金の借金背負ってますし」
僕は?じゃ、親父さんは金持ちとか?
「クルマも中古のNBっす」
いや、訊いてない。お、父、様、は、お金もってらっしゃるのね? ん?NB?ああ、いいセンスやね
「・・・はい、まあ親父はけっこう・・・」
合格(敗者復活)。 あ、焼きそばパンとか食べる?買ってこようか?
お父様によろしくお伝えください君はこれからペアコーチにとってもとってもお世話になるんだよ~
こんにちわ。
決して人を経済力や外見などでは判断しないフェアな男、IRASです。
そんなIRAS..........日々、唯我独尊ゆとり世代の後輩に 「私の仕事が上手く回らないのはあんた達のサポートがないせいだ!」 と責められ、自分が成長してないのに新人の成長を託されるという理不尽なストレスを解消する手段は、プライベートでのクルマ時間のみ。
そして、実は3デシリットルくらいしかない心のキャパがちょうどオーバーフローしかけた10月最初の週末モーニング、うってつけのタレコミ情報がひとつ。
「今日、昼前から広島イタ車チームでプチオフやるらしいよー」 (by奥さん)
ナイス! そうそう!そういうの待っててん、奥さん
「でも、行けないって断っといた今日、美容室予約したんだよね?」 (by奥)
ガッデム! 何してくれとんねんっ!俺!
千載一遇のストレス発散チャンスを自らぶっ潰し、挙句に 「ちょっと短かめで」 とオーダーした頭は何故か緩めのアイパーになり、同じく 「短め」オーダーに失敗してきのこの山みたいな頭になった息子に 「ははははっ!チリチリの角刈りじゃ!」 と指さして笑われる始末.....
(美容院でいつもと違うオーダーする時は、ある意味ロシアンルーレットだよね)
しかし、神はそんな面白ヘアをお見捨てではなかった!
失意のうちにチリチリ頭で帰宅した午後2時。助手席の奥さんにLINE着信
「まだ駄弁ってます。来ます?」 (by イタい人達)
しかも、オフ会場はウチの近所の尾道浪漫珈琲 これはもう、髪型が変でも行くしかねぇ! 「よっしゃ!オフ会や!」 急にテンションあげあげのおっさん(41)。自慢の500をガレージから引っ張り出し意気揚々と走り出すと、わずか50秒で会場に到着する
(いや、いくら何でも近ぇよ!ドライブどころか5速にすら入れとらんわ!)
店に入ると、いつものように落ち着いてムーディな店内の一角に、徹夜麻雀明けの三畳一間(築35年)みたいな雰囲気のテーブルが1つ。 さすが、ドリンクだけでもう4時間近く居座っているだけに、空気が淀んでいる
この日お集まりだったのは、もうお馴染みのGPさん、葉月さん、かずさん、でんでんさん、maxさんに加え、個人的に今回が初対面となるsuu/さん。 オフ会後半戦の笛が鳴り、居住権延長のためにとりあえず各自追加でドリンクオーダー。俺の目はメニュー表中段の 「メロンソーダ」に釘付けだったが、さすがにもういい歳した大人の集まりなのでアイス珈琲を注文する。
―5分後
「お前ぇら、もういい加減に帰ってくれよ」 と顔に描いてあるバイトの兄ちゃんが運んで来たのは、アイス珈琲ひとつと、メロンソーダ3つ・・・ そうだ・・・これはイタ車乗りの会。男性陣は皆、老け顔の小学生であることをすっかり忘れていた。
そんな見た目は大人&頭脳は子供の逆コナンたちは、何時間たっても飽きることなくクルマ談義で大盛り上がり
「生前に墓石買うくらいなら、クルマ買ってその中で死にますよね」
俺のそんな発言も、愛想笑いで流されるどころか、「ケーターハムに遺体と花詰め込んでそのまま火葬・・・あ、それって素敵じゃない?サイズもちょうどいいしさ!いいアイデアだよねぇ」 と相乗りしてくれる懐の広さはさすが。これだからクルマ仲間との時間は楽しい。
そんな、老けた少年達のやり取りを聞きながら、とっくに諦念の境地に達している奥様陣は 「まあ、自分で働いてるんだし好きなクルマ買えばいいんじゃない?だって、働くだけ働いて自分の欲しいモノも買えんじゃ可哀そうよねぇいつ死ぬかもわからんのに」 と、思わず今この場でディーラーにTELして見積依頼したくなるような、ありがたいお言葉 (そこはかとなく、保険金殺人の気配を感じないではないが・・・) こういう理解ある度量の広い女性に、クルマ好き暴走亭主の人生は支えられている。俺も早速、トリミさんに見積りしてもら・・・!! ・・・何だ?なんか一瞬凄い殺気を感じた気がするのだが・・・ 気のせいか?
ちなみに長期滞在者が占拠しているのは店内のみならず、店の前もこの状態。平和な休日のスーパーの駐車場の一部だけがやけにマニアック・ワールドと化している。うちの500の隣に止まっているのは、何を隠そう、拇印でこの500を買う前に乗っていた俺のクリブルNB・・・ではなく、見知らぬどこぞの粋な爺さんのNBだが、やっぱりこの色はいい 500納車のあの日以来、数年ぶりに見るこの2ショットは、個人的にはかなり感慨深いものがあるな
・・・え? そんな回想はともかく、イタ車乗りの集まりと言いながらイタ車3台しかないやんけ!って? そりゃそうだ。基本、広島も九州もそうだが、この手の趣味の方は4分の3以上がウチと違って本物のお金持ちor 独身貴族。 皆さん、自転車感覚でTPOに合わせて複数台の車をお持ちなのだ。そんじょそこいらのIRAS家などと一緒にしてもらっては困る
そして、ここで後半戦も遂にロスタイムに突入
話のネタは尽きず、さらにもう御一方「今から行きます!」と入電するも、オフ会開始から実に6時間近く。さすがに僅かばかり残っていた良心の呵責に耐え切れなくなった一団は、「場所を変えましょうかね」 と、危うく癒着しかけていた椅子から立ち上がり、長~い伝票持ってレジに一列縦隊。各自、支払を済ませて、同じ店内の違うテーブルに お行儀よく着席する。
なんだそりゃ!?いや・・・確かに、場所は変ったけどもやな・・・
さすが、イタリアンな方々は常識的な予測の範疇を超えている
maxさん父子OUT、激カッコいい青パンダ(写真撮らせてもらうの忘れとった!)乗りのTakezo-さん御一家INで、延長戦開始 居座る以上はオーダー。もちろん、紳士淑女たちはちゃんとその辺は心得ており、俺のオーダーも既に決定済当然、さっき頼み損ねたアレだ。
「えっと・・・メロンソーダのお客様は?」 ― ハイ!
勢いよく挙手する4歳と41歳。
トレイを持つ女性スタッフがこっちをチラ見して失笑したのを俺は見逃してない
延長戦はさらに話題豊富で・・・
・竹やりマフラー車が超安全運転な理由(竹が折れるから)
・筑豊のブラック度(盛り気味で)
・広島市街地各地の謎の豪邸裏話(胡麻塩頭とケンシロウ眉毛がどっちも刺青のオーナーの話とか、小指をどっかで落とした人の話とか)
・出たばっかの124スパイダー寸評
・BMW製クックパッド
等々、攻撃バリエーションはレアルマドリード級 いや、このメンバーはなかなかレベルが高い。
そして行きつく先は、家より高いクルマを八百屋のサザエさん感覚で買える 「あなたの知らない世界」の話。
「あのクラスはね、もうモノが違う。薦められたら、じゃ、それ下さいだもん」
「ディーラーの対応の仕方も違うよね。好きに見て下さい、エンジンかけてもOK!みたいな」
「でも、何でもかんでも高いクルマならいいってのは違うよねぇ」
「そうそう、もうそうなると単なる投資対象だもんね。とりあえず買っといて後で高く売るっていうさぁ」
「俺の知り合いの人でフェラーリ何台か持っててラ・フェラーリ買う権利も持ってる人いんだけど、その人はホント好きで乗ってるから、金はあるけどアレあんま好きじゃないから買わないとかって言ってた」
いや、もう今は亡き宜保愛子先生もビックリの世界
俺も今度、飲み会の席なんかでドヤ顔で言ってみようかなー。
「ラ・フェラーリ?あーあれ好きなんだけど買う権利ないから買わないよ」って・・・・悲し・・・
ひとしきりネタを放出し、各自ドリンクも飲みほしたところで一行はようやく退店
ホールスタッフから厨房担当まで、店の至る所から安堵の溜息が漏れる。
そして、延長ロスタイムは、いつものクロージング ― 駐車場で愛車を囲んでの品評会
マカンもアバルトもいいクルマだが、NO スポーツカー NO ライフの俺にとってはやはりかずさんのエリーゼが単勝1.1倍の圧倒的な一番人気 相変らずこのグラマラスなフェンダーラインだけで、ごはん2杯はイケるね
(嗚呼、スポーツカー欲しいよ~)
よく考えると、オフ会に浮かれて自宅にキノコ頭を放置したままだったので、IRAS一家は一足お先に退散(といっても家まで50秒ですけど・・・)
「じゃ、お先に失礼しまーす!お疲れっす!」
「あ!旦那さんが運転してる!」
ステアリングを握る上機嫌なおっさんに、見送りのギャラリーからあがる驚きの声。
そうなんですよ、皆さん。
「俺のクルマじゃないんだから運転しないよ」とかってイキってる奴いましたよね?昔。
でも、ある時気づいてしまったんです それって、下手すると永遠に助手席ってことに生き地獄だ・・・
というわけで、今、ドライバーやらせてもらってまーすえへへ
次回のオフ会は10/16だ!
・・・・へ?何? 16日はヘアショーがある? そこそこ高いパー券を俺がノリノリで買った? これで俺もパーリーピーポーや!って小躍りしてた?
重ね重ね何してくれとんねん、俺! 自分の楽しみを何回自分で潰すねん・・・
また誰か誘ってくれるといいなぁ・・・