今年はフェラーリがタイトルを獲っても何ら不思議ではない
第4戦バーレーンGPのこの表彰台は
良くも悪くも、そんな希望的観測を生むのに十分な驚きに満ちていた
政情不安による開幕戦中止から丸1年
依然収束せぬ情勢に、各国の主要放送局がスタッフの派遣を見送り(フジテレビも川井ちゃんスタジオ待機)、一部チームが過剰反応(クルーの帰国、プラクティス辞退)するなど、およそモータースポーツには相応しくない緊張感を帯びて開幕した今年のバーレーンGPだったが、終わってみれば、2年ぶりとなるサクヒールの週末は至ってスムーズに進行
むしろ最大のサプライズは、反政府運動などではなく
わずか1週間で逆転した、メルセデス勢とルノー勢の勢力均衡だった
白砂舞う中行われた予選で
今シーズン初めて光る 「GIVE YOU WINGS」
久しぶりにみる、このNo.1ポーズ
2週連続開催にもかかわらず、新エギゾーストのフィーリングを劇的に改善(=ベッテルの好みに合わせ込んだ)したニューエイ・マジックは、若き王者に再び上海で失ったはずの翼を与え、今季初の定位置に押し上げる
一気呵成のメルセデス系2チームにとっては
完全に想定外の“濃紺の疾風”一閃
2012年シーズンは、まるで砂漠の流紋の如く刻一刻とその表情を変えてゆく
そして、迎えた決勝レースは
「ベッテル劇場」の今季初公演
PPからの先行逃げ切りは、過去2年飽きるほど見せつけてきた王者の必勝方程式で、磐石のスタートから1コーナーを獲るや、得意のオープニング・スパートで2位ハミルトン以下を一気に突き放しにかかる
過去3戦、ともすれば集団に埋もれて焦りをみせた王者も
こういう状況では決して些細な凡ミスを犯さない
「なぜかクルマが前に進まなかった」
つい先日耳にした誰かのコメントを思い出し
訪れたチャンスを確実に活かす“冷静”と“執念”の両立に
改めて 王者の資質 を見る
そのスタートで、この日唯一“一瞬の輝き”を魅せたのはフェラーリ
アロンソのブラックアウト・ジャンプUPはもはやチームの計算内だが
予選でまたしても14位Q2敗退を喫したマッサが
抜群のダッシュで一躍8位まで浮上したのには
世界が 「Really ??」
(フライングじゃ・・・・?)
疑念を胸にオンボードカメラのリプレイ映像を見た解説陣が辿り着いた答えは
「フェラーリのスタートシステムはまた進化しましたね」
だった・・・
がんばれマッサ!負けるなマッサ!
お天道様はきっと見て下さっている・・・
そして・・・そんなマッサショックの余韻が落ち着いた頃
パドックは、この日の主演が先行する現王者1人ではないことに気付く
2台の紅い跳ね馬とシンクロするように
スタートで後方グリッドから静かに上位陣の背後に着けた2台のロータス
前戦中国GPでの失敗を教訓に、週末を通じてレース・シュミレーション一点集中で仕上げたE20は、ピレリタイヤの劣化にモタつくメルセデス勢を置き去りに、ライバルとは異なる時間軸を昇ってゆく
特に、予選でセカンドローまでに2台を送り込んだマクラーレンの失速ぶりは顕著で、ポイントリーダーのハミルトンをもってしてもGP2上がりのグロージャンに全く太刀打ちできず
その後も、両ドライバー共ペースは上がらず
度重なるピット作業ミスやマシントラブルなど、この日は散々
開幕戦の覇者は大きな失望と共にバーレーンを後にした
「僕らは、大きな問題を抱えている」
最終的に8位でレースを終えた、ハミルトンの弁である
各車1回目のタイヤ交換を終えた15周目
トップ3のオーダーは、早くもベッテル、グロージャン、ライコネン
4位以下はもはやこの3台のペースに付いて行くことすら叶わず
レースの焦点は、“逃げるベッテルと追うロータス”の1点に絞られる
24周目
チーム内対決を制して2位に浮上したライコネンが
2度目のピットインでミディアムタイヤに交換
それを見たベッテルとグロージャンも翌周ピットに飛び込むが
この1周がこの日最高のドラマの幕開けとなる
予選でのポジション争いを捨て、ロングランペースに優れるミディアムセットを温存したアイスマンの読みはズバリ
ピットイン前5秒あったトップとのGAPはわずか1周で2秒となり
ベッテルが選択した(せざるを得なかった)中古ソフトが早々に性能低下するや一気に1秒以下のドッグファイトに突入する
王者はお前だけじゃない
漆黒のマシンの中、光を弾くバイザーの奥に
一瞬ライコネンの不敵な笑みが見たように感じたのは錯覚か
久しぶりに、フライング・フィンが牙を研ぐ
そんな2人の緊張の糸がキン・・・と張り詰めたのは36周目
DRSによる+20km/hのアドバンテージを武器に
ホームストレートエンドで一気にベッテルの影から飛び出すライコネン
すかさず、ドアを閉じるベッテル
新旧王者が交錯する1コーナー
ライコネンは即座にマシンをアウトに振るも
そこから大弧のオーバーテイクラインは描けずステップバック
金・土・日・・・
この週末全て予定通りに進めてきたライコネンのシナリオに狂いがあったとすれば、その1つはここで一息入れたこと
そして、直後の39周目に
目前のベッテルと同時に3度目のピットインを敢行したことだろう
スナイパーの駿足を見たベッテルは
最終スティントのタイヤに迷わずミディアムを選択し万事休す
その後、2人の王者のGAPが再び2秒を切ることはなかった
セバスチャン・ベッテル
PP to WIN で逆襲の今季初勝利
大混乱の開幕フライアウェイ4戦も
終わってみればこれでポイントリーダーはベッテルとなり
3連覇を狙うチャンピオンは最高の形でヨーロッパへと戻る
最速の道具がなくても勝てることを証明するのは、今
若き皇帝が在るべき場所へ帰還した
2、3位は躍進のロータス・ルノー
かつてのチャンピオンチームが、ついに再びこの位置まで戻って来た
復活のアイスマンに2年のブランクの影なし
ともすれば勝てたレースだけに笑顔こそなかったが
時折、そのライコネンをも凌駕するスピードを魅せる若きグロージャンと共に
ライバルのブラックリストに名を連ねたことは確実だ
前戦、キャリア初優勝を果たしたロズベルグは5位
チャンピオン経験者相手に強引なブロックラインで
レース中2度も審議対象となるもお咎めなし
(そもそも、簡単にラインを譲るようではタイトルは狙えない)
相変わらずチーム内のアクシデントはミハエルに集中しており
最速ではなくとも、まだまだ流れは彼の手の内にある
なんとか2ストップ戦略を機能させ6位入賞を果たしたディ・レスタを挟んで
我慢のフェラーリ勢は7位と、9位
F2012のパフォーマンスを素直に反映したリザルトとはいえ
ようやくマッサがアロンソに近いペースで完走できたことは明るい材料
いよいよ、間もなく登場する「Bスペック」に全てを賭ける
それにしても・・・
これで4戦終了して、優勝4名、表彰台登壇6チーム
もう20年以上F1を観ているが、こんなシーズンは記憶にない
次戦は、シーズン制覇の縮図とも言えるスペインバルセロナ
戦国の流れは新たなる第五の勝者を生むか
はたまた、天下統一の旗手が現れるか
ようやく “ゼロの呪縛” を断ち切ったマッサに祝いの杯を挙げながら
まずはムジェロの紅い奇跡を祈ろう