その手紙が届いたのは、1月のある寒い夜のことだった
正月連休明け特有の気だるい疲労感を必死に抑えながら
自宅から20kmほど離れた職場から帰宅したとき
時計の針は既に18時半を指していた
数日前に到来した日本海上の寒波により冷やされた空気は
日没を過ぎて一層その冷たさと棘々しさを増し
氷点下特有の凛とした刺激を頬に伝えてくる
僕は凍える手を揉みほぐしながら
玄関先のポストに形だけ付けられた安物の南京錠を外し
その日郵便受けに届けられた配達物を一手に掴み取った
どこかの宅地の中古住宅販売のお知らせに
最寄スーパーの週末の食品特売を知らせる安っぽい黄刷りの広告・・・
いつものように、近所の主婦がアルバイトで投げ込んで行ったのであろうチラシ達がほとんどだ
そして、その手紙はそんな中にひっそりと混じっていた
手紙は、どこか清純さを感じさせるオフホワイトの封筒に収められており
宛名の欄には、送り主の性格を現すように綺麗な筆跡で僕の名が書かれていた
玄関の土間で靴を脱ぎ、冷えたフローリングの感触を足先に感じながら裏返すと
しっかりと糊付けされた封の端には、送り主の人となりを連想させる
いくつかの月や星を象った可愛らしいシールが添えられている
そして差出人の欄には、僕にも読めるタイプの字で
とある一人の女性の名が記されていた
(・・・・・・!)
それは、よく知っている女性の名だった
前回会ったのは確かまだ冬の寒さが到来する前
師走に入ったばかりの頃だったはずだ
平日だが有給休暇をとって休むというので
それならば一緒に食事でも・・・・と自宅に誘ったのだ
僕は全てが褐色に覆われた冬の景色に
ふと、ひとつの火が灯るような感覚を覚えながら
直ぐにでも封を開けたかったが、一方でこの手紙の中身に目を通すのにはいくばくかの勇気が必要であることも分かっていた
数分の逡巡のあと、僕は身に付けている衣類一式を洗濯機に放り込むと
手早く入浴を済ませ手紙を片手に2Fのリビングへと上がり
帰宅途中にスーパーで買ってきた惣菜を口に押し込むと豚汁で胃に流し込む
汚れた食器類をキッチンへと運ぶのもそこそこに
僕は改めて手紙をその手に持ち
その封書に正対するとひとつ大きく深呼吸をした・・・
昨日のうちの坊主の心境を後世に伝えるとすれば
さながらこんな感じだろう
この小僧・・・4歳にして美人OLと文通してやがるのだ!
見よ!このニヤけ切ったツラを!
大好きなお姉さんからの手紙に完全に骨抜き状態だ・・・ちくしょうめ・・・
お相手はうちの奥さんの職場の同僚だった女性で
どうやらこの小僧の好みにメガヒットするらしい
(実際、客観的に誰が見てもかなり美人だ)
大好きな人からの大切な手紙を慎重に開封
恐る恐る取り出した手紙を食い入るように熟読
ちょっと距離を離してみて、もう一度熟読
さらに、あとちょっと距離を離してみて、また熟読
体勢を変えて、電気に透かしながら、さらにもう一度熟読
ええかげんにせいっ!
なんだか、実に不愉快である(笑)
しかし、この小僧・・・その選択眼はかなり俺とマッチする
こりゃあ、将来彼女を連れてくる日が楽しみだ・・・・
せやから、もうええっちゅうねんっ!
自慢げにいつまでもヘラヘラ見せびらかしやがって・・・