東証「ディスクロージャー及び株主重視に関する施策等の調査報告書」を読む(その3) | IR担当者のつぶやき

IR担当者のつぶやき

上場企業に勤務する公認会計士の、IR担当者として、また、一個人投資家としての私的な「つぶやき」です。

ときどきIR担当者的株式投資の視点も。

その2 )からの続きです。



Ⅱ 個人株主拡大・株主重視に関する取り組み状況


(1) 電磁的な方法による株主総会招集通知

 会社法第299条第3項の電磁的な方法による株主総会招集通知を行っているかどうかについての設問です。

【回答】

① 行っている: 7.6%

② 行っていないが、実施時期について具体的な予定がある: 0.5%

③ 行っていないが、今後行う予定がある: 11.2%

④ 当面行う予定はない: 80.5%


まぁこんなものでしょうか。

当面、招集通知を電子化する予定はないという企業が8割超というのは、制度の実際の上の使い勝手の悪さから来ていると思います。

証券代行の信託銀行の方に以前お話を伺ったときには、議決権行使の電子化に比べて、招集通知の電子化のほうはかなり遅れているとのこと。

というのも、大雑把にいうと、株主さんの同意をとりつつ、OKの人には招集通知を電磁的方法により通知するというわけなので、全員がOKしないと紙媒体としての招集通知はなくならないわけで、個別対応になる分、手間も費用もかかることになります。

かといって、取締役会決議でエイヤッと当社は電磁化一本にしましたから、株主さんはネットで確認してください、という一律の処理など、株主保護の観点からはできるわけもなく。

というわけで、制度として用意されていたとしても、この制度を使おうという気になる会社が圧倒的に少ないのも頷けます。


一方、議決権行使の電子化のほうは、徐々に利用企業は増加しているようです。

招集通知にインターネットで議決権行使ができて、総会前日の営業時間終了までに行使してください云々と書いてあるやつです。


私も、先日会社に提案したのですが、見事に玉砕しました(T.T)

この議決権行使の電子化、東証が旗を振っている「機関投資家向け議決権電子行使プラットフォーム」を利用するための前提となっています。


■東証 機関投資家向け議決権電子行使プラットフォーム

 http://www.tse.or.jp/listing/platform/


つまり、こういう扱いです。


会社が全株主対象に、議決権行使の電子化を行う(信託銀行等の証券代行機関が対応)

 ↓

東証の「機関投資家向け議決権電子行使プラットフォーム」に乗ることができる(ICJが運用)


このプラットフォームに乗ることにすると、招集通知の発送後、証券代行が電子(PDF)化された招集通知をネットにアップします。

おそらくそれが、ICJの運用するプラットフォーム上にも流れていって、機関投資家さんがデスクにいながらにして、招集通知を確認し、議案に対する賛否を投票することができるようです。


この議案に対する議決権行使、機関投資家さんとしてはだいぶ大変なようです。

企業年金連合会の議決権行使基準等を勘案しつつ、自社の議決権行使基準などに準拠して、議決権行使を行う必要があり、連合会などはどんな議決権行使をしたかチェックしているようですし。


■企業年金連合会 議決権行使基準

 http://www.pfa.or.jp/top/jigyou/gov_1.html


ICJの案内等によると、メリットとしては、招集通知を発送した後、割と早い時期から議決権行使の状況が見え始めるということで、従来、総会の前々日くらいにならないと、返送されてきた議決権行使書の入力結果がわからなかったことからすれば、発行会社にとっての票読みがずいぶんと楽になるはずです。

機関投資家にとっても、到着した招集通知を開封→該当のファンド・マネジャーなど担当者へ振り分け→社内配送→検討→賛否を行使→社内回収→発送(→証券代行に到着・入力)といった手間が省ける分、スムーズ&スピーディな議決権行使ができることと思います。


ついでに言えば、昨年のIR優良企業賞の採点ポイントでもありましたので、ぜひ実施したかったのですが、証券代行とICJとで若干、費用がかかり(それでも当社の規模だと130万円程度ですが)、いったん始めたら削減しづらい固定費となるので、社長のOKがでませんでした。

機関投資家さんからの要望が強ければ考える、ということでしたので、今度、パーセプション・スタディやるときには、質問項目に入れておこう・・・。


余談が過ぎました。先を続けます。



(2) 株主総会招集通知の発送

 招集通知をいつ頃発送しているかという設問です。

【回答】

① 4週間前までに発送している: 1.9%

② 3週間前: 22.5%

③ 2週間前: 75.5%


この設問だけみると、法定どおりの2週間前が圧倒的に多くなっています。

しかし、本当は、総会開催日が集中日前後に行われているかどうか、という設問とあわせて考えないといけない問題ではないかと思います。

当社などは、多少総会集中週からずらしていますので、2週間前発送でも原稿作成上はかなり厳しい状況です。

毎年、決算スケジュールを決める際に、パズルのように設定しています。


■決算スケジュール

 http://ameblo.jp/ir-man/entry-10029260621.html



(3) 英語版株主総会招集通知の作成

 招集通知の英語版を作成しているかどうかという設問です。

【回答】

① 作成している: 14.6%

② 作成していないが、実施時期について具体的な予定がある: 0.2%

③ 作成していないが、今後行う予定がある: 3.6%

④ 当面作成する予定はない: 81.5%


圧倒的に作成予定がない会社が多いですね。作成している会社が210社強という結果です。

英語版招集通知を作成している会社における外国人持株比率がどの程度の分布になっているのか、を明らかにしてもらわないと、追随する会社はなかなか増えなさそうです。


(4) HPに現在掲載している決算説明会および株主総会に関する情報

 これらの情報に関して、HPにどのようなものを掲載しているかという設問です。

【回答】

① 決算説明会説明資料: 55.8%

② 決算説明会の説明要旨: 11.1%

③ 決算説明会の応答要旨: 4.7%

④ 決算説明会の動画情報(質疑応答部分を含む): 3.1%

⑤   〃  (質疑応答以外): 14.6%

⑥ 株主総会招集通知(和文、発送当日に掲載): 22.3%

⑦   〃  (和文、発送日後に掲載): 13.4%

⑧   〃  (英文、発送当日に掲載): 7.9%

⑨   〃  (英文、発送日後に掲載): 2.5%

⑩ 株主総会の説明要旨: 6.2%

⑪ 株主総会の応答要旨: 1.3%

⑫ 株主総会の動画情報(質疑応答部分を含む): 0.7%

⑬   〃  (質疑応答以外): 3.3%

⑭ 掲載していない: 32.3%


決算説明会や株主総会に関連する情報をまったく掲載していない会社が、まだ1/3程度もあると思うと、東証上場企業のIR意識もまだまだだなぁと思ってしまいます。

それ以外の会社では、決算説明会資料の掲載が過半数を占めていて、ポピュラーになってきています。

また、招集通知を掲載するなら発送当日から、という意識の高い企業が20%以上もあるのは心強いと思います。

招集通知の後日掲載と決算説明会の動画掲載(質疑応答以外)が13~14%程度と、ほぼ似通っています。

決算説明会の動画配信は費用が少し高くつきますので難しいとしても、招集通知の掲載のほうが印刷会社にPDF依頼するだけですし、タイミングを早めにすればよいだけですから、来年以降、比較的ポイントは上がりやすいと思われます。


決算説明会も総会も、説明要旨については、テープ起こしするなどの必要がありますので、いざやろうと思うと、IR担当者としては気が重い項目の1つだといえるのではないでしょうか。

ただ、IR優良企業の中には、動画を見る時間がもったいないので、文章として説明要旨をつけているという会社さんがあり、なるほどなぁと思わせられました。

当社としても、このあたりは今後の検討課題です。


質疑応答を載せるかどうかは、IR担当者だけではなかなか決めづらい部分がありますね。

とくに総会の質疑、ということになりますと、経営陣の理解がないと難しいと思います。

総会の動画配信やどのような質疑があったかなど、公開する義務はないわけですから、経営者自身がオープンな総会をめざそうという考えのもと、どのあたりまでオープンにしていくかを決めていく必要があります。

一方で、質疑応答で下手な回答をしたなぁと後悔している役員さんからは、公開には反対、という声が上がる可能性もありますし・・・。



(5) HPに今後掲載を予定している決算説明会および株主総会に関する情報

 現在掲載している情報を含み、今後の予定を問う設問です。

【回答】

① 決算説明会資料: 49.5%

② 決算説明会の要旨: 12.5%

③ 決算説明会の動画情報: 17.2%

④ 株主総会招集通知: 40.6%

⑤ 株主総会招集通知: 10.2%

⑥ 株主総会の要旨: 8.9%

⑦ 株主総会の動画情報: 4.1%

⑧ 予定なし: 33.8%


招集通知を今後掲載予定という会社が約4割あります。

裏を返せば、それだけまだ未掲載の会社が多いということですね。

確かに、2月のときもそうでしたが、総会に出席することを目的として権利取りしようと思うと、招集通知が掲載されていないくて、総会の場所を調べるためにEDINETで検索しないといけない、という面倒くささがありました。

できれば、多くの会社で招集通知は、自社HPに掲載していてもらいたいものです。


(そういえば、3/17から、新EDINETになる予定ですよね。少しは、検索がしやすくなっているんだろうか・・・。)


■金融庁 新EDINETご案内

 http://www.fsa.go.jp/search/20080304-1.html



(6) HPに現在掲載している情報

 現在、どのような情報をHPに掲載しているかという設問です。

【回答】

① 財務情報の数値データ(数年分の推移など): 76.5%

② 有価証券報告書(数年分): 55.9%

③ 有価証券報告書(1年分): 2.7%

④ 有価証券報告書閲覧用のEDINETへのリンク: 21.3%

⑤ 適時開示資料(数年分): 90.0%

⑥ 適時開示資料(1年分): 3.0%

⑦ 株価情報(リンク含む): 71.2%

⑧ 事業内容を説明した投資家向けコンテンツ: 61.4%

⑨ FAQ: 39.4%

⑩ 決算発表予定日・発表予定時間: 9.3%

⑪ 決算発表予定日のみ: 38.0%

⑫ 事業報告書・株主通信など株主向け資料: 73.0%

⑬ 英語版アニュアルレポート: 36.9%

⑭ CSR関係資料(CSR報告書、環境報告書): 33.8%

⑮ その他の株主向け資料(知的財産等): 8.8%

⑯ 掲載していない: 0.1%


財務数値や適時開示資料、株価情報や事業報告書等の掲載はかなり高い数値になっていて、IRホームページの定番メニューです。

有価証券報告書(数年分)も55%を超えるなど、ずいぶん高くなってきています。

今後も、徐々に、どのメニューも比率が上がっていくと予想されます。



(7) HPに今後掲載を予定している情報

【回答】

① 財務情報の数値データ(数年分の推移など): 60.3%

② 有価証券報告書: 49.8%

③ 有価証券報告書閲覧用のEDINETへのリンク: 23.2%

④ 適時開示資料: 68.5%

⑤ 株価情報(リンク含む): 57.2%

⑥ 事業内容を説明した投資家向けコンテンツ: 50.8%

⑦ FAQ: 39.8%

⑧ 決算発表予定日・発表予定時間: 37.7%

⑨ 事業報告書・株主通信など株主向け資料: 60.9%

⑩ 英語版アニュアルレポート: 32.6%

⑪ CSR関係資料(CSR報告書、環境報告書): 31.9%

⑫ その他の株主向け資料(知的財産等): 10.4%

⑬ 予定なし: 14.4%


先ほどの掲載済みの情報との比較でいうと、決算発表予定日・時間が9.3%→37.7%と、かなり大きく出ています。時間といっても、引け後とかだと、あまり意味ないのかもしれませんけど・・・。しかし、ピンポイントで、午後○時台、という会社も多くはない気がします。

有報やFAQなどについては、現在・今後の予定とも、バランスの取れた回答になっていると思います。

英語版アニュアルレポートやCSR関係書類については、まだまだこれから、というレベルですね。今後の予定という意味で、約1/3程度ですから。



今日は脱線が多かったので、このあたりで。

次回は、パートⅢ 決算短信等の開示状況について見ていきます。



その4 )へ続く・・・。


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