1/30に、東証から各上場会社宛に、「四半期決算短信の新様式・作成要領(試案)の公表について」という通知が出ています。
いよいよおいでなすったね・・・
まだ試案の段階であるため確定ではありませんが、2/15まで意見受付、3月をメドに確定・公表の予定だそうです。
以下、四半期決算短信の様式(試案)をチェックしていきたいと思います(確定時には変更があるかもしれませんので、必ず確定した様式・記載要領をご確認ください)。
今後、四半期報告制度が導入されると自ずと慣れると思いますが、法令や様式に基づいて開示書式に記載する数値が、四半期「累計」なのか、四半期「会計期間」(=3ヵ月分)なのか、常に注意深く読んでいく必要があると感じました。
また、言い回し・表現については、正確に表現すると東証の用意した表現に限りなく近づいてしまい、無味乾燥になりがちなので、意味がわかる程度に、できるだけ簡素に表現したいと思います。
なお、前提として連結財務諸表作成会社とし、非連結については省略します。
Ⅰ 四半期決算短信の構成
(これまで東証が求めていた四半期情報は、正式名称としては「四半期財務・業績の概況」というもので、慣行的に四半期”(決算)短信”と呼ぶ向きもあったようです。今後は、正式に「四半期決算短信」というタイトルになります。)
【サマリー情報】
1. 平成21年3月期第1四半期の連結業績
(1) 連結経営成績(累計)
(2) 連結財政状態
2. 配当の状況
3. 平成21年3月期の連結業績予想
4. その他
(1) 期中における重要な子会社の異動
(2) 簡便な会計処理および四半期連結財務諸表の作成に特有の会計処理の適用
(3) 四半期連結財務諸表作成に係る会計処理の原則・手続・表示方法等の変更
① 会計基準等の改正に伴う変更
② ①以外の変更
(4) 発行済株式数(普通株式)
① 期末発行済株式数(自己株式を含む)
② 期末自己株式数
③ 期中平均株式数(四半期連結累計期間)
※業績予想の適切な利用に関する説明、その他特記事項
【定性的情報・財務諸表等】
1. 連結経営成績に関する定性的情報
2. 連結財政状態 〃
3. 連結業績予想 〃
4. その他
(1)~(3)までありますが、要はサマリー情報に記載した項目の説明です。
5. 四半期連結財務諸表
(1) 四半期連結貸借対照表(B/S)
(2) 四半期連結損益計算書(P/L) (四半期連結累計期間、四半期連結会計期間)
(3) 四半期連結キャッシュ・フロー計算書(C/F)
(4) 継続企業の前提に関する注記
(5) セグメント情報
(6) 株主資本の金額に著しい変動があった場合の注記
上記が四半期決算短信の全体的な構成になります。下線部の項目については、省略可能とされています。
逆に、注意が必要なのは、ゴーイング・コンサーン(継続企業の前提に関する)注記と、株主資本の注記については、項目を省略することができない、という点です。
普通の会社はゴーイング・コンサーン注記の項目立てをすること自体、とんでもない
と感じると思いますが、四半期決算短信からは、項目を設けたうえで、「該当事項なし」と記載することになります。これは、注意が必要です。
Ⅱ サマリー情報
次に、サマリー情報について、気がついた点・まちがえそうな点をピックアップしておきます。
(サマリー情報というのは、決算短信の最初の2ページ、比較可能性を高めたり、マスメディア等の利用しやすさ等のために、どの会社も決められた四角枠に記載している情報をいいます。)
・四半期報告書提出予定日・・・表題部に「四半期報告書提出予定日」の記載が要求されています(おそらく45日目が多いのでしょう)。
・個別ベースの情報は不要・・・サマリー情報には、個別ベースの欄はありません。法定開示から個別ベースの情報がなくなっているため、それにあわせたものとなっています。また、財務諸表(F/S)に関しても、個別F/Sは不要とされています。
・連結経営成績(累計)・・・前年同期比較は「累計」ベースとされています。
また、(参考)として付加されていた前期(通期)ベースの数値の記載欄はありません。
記載すべき項目は、売上高・営業利益・経常利益・四半期純利益・1株当たり四半期純利益・潜在株式調整後1株当たり四半期純利益と、現在と同じです。
・連結財政状態・・・四半期末と前期末(例えば1Q末と前期末)を上下に対比する形式です。
記載すべき項目は、総資産・純資産・自己資本比率・1株当たり純資産であり、現在と同じです。
・配当の状況・・・上から、前期・当期(実績)・当期(予想)の順に記載します。
経営成績、財政状態は、当四半期が上なので、順番が逆になっている点に注意です。
一番の注意点は、四半期配当を行っていない場合でも、各四半期末の欄は省略不可になっている点です。
四半期配当制度を採っているが無配の場合は「0円00銭」、四半期配当制度を採っていない場合には「-」で記載します。
なお、配当額のレンジ表記(5~6円など)が認められています。
また、これも忘れがちと思われますが、配当予想の修正があった場合に、欄外に
「(注)配当予想の当四半期における修正の有無: 有」
と記載することになります(配当予想の修正リリースは別途必要)。
さらに、この配当の状況の記載は、「普通株式」の、「金銭による配当」で、配当原資が「利益剰余金」の場合を前提にしています。
「種類株式」(配当優先株など)の場合(伊藤園などが該当するでしょうね)や、現物配当の場合、配当原資が資本剰余金の場合などは、サマリー情報の次に3ページ目を設けて、そちらに記載することとされています。
・連結業績予想・・・これが最も難しくなっています
1Qの四半期決算短信: 2Q累計と通期について予想
2Q、3Qの四半期決算短信: 通期のみ予想
つまり、基本的には、四半期ごとに 損益項目(売上高・営業利益・経常利益・当期純利益・1株当たり当期純利益)を予想しろ、ということになります。
ただし、2Q予想については、業績管理を年次でのみ行っているのであれば、通期予想のみでよいとされており、2Q予想の欄に「-」を記載することになります。
しかし、その場合には、欄外に2Q予想を行っていない旨を記載するばかりか、定性的情報のパートで2Q予想をしていない理由を記載することが求められます。
ですので、相当確固とした理由がないと、決算発表時に東証のTDNetに登録した際、東証の上場管理担当者からツッコミが入ることを覚悟しなければなりませんし、投資家から他の会社は2Qの予想を出しているのに、なぜオタクの会社は出さないのか と、厳しく問い詰められること請け合いです
必然、IRの実務に於いては、2Q予想は開示するけど、3Q予想は内緒、ということは許されず、四半期ごとの予想の開示を求められることになると思われます。
これはイヤですよ~。
結果として、当初の通期予想が達成できたとしても、期中にデコボコがあったりすると、それだけで、売られたり買われたり・・・。
ましてや、上期に計画未達で売ってしまった投資家さんからは、下期頑張って当初計画まで戻したとしても、期中の四半期ごとの予想がいい加減だから、売っちまったじゃないか と怒られるハメになりそうな・・・。
そんなに四半期ごとに計画どおりにいけば、世話ないですって。
企業も生き物であって、工場の機械じゃないんですから・・・。
なんだか、この四半期予想の開示、アナリストや投資家の投資判断に、相当これまでと異なる影響を与えそうです・・・。
なお、通期予想が難しい業種など、相応の理由があれば、通期予想を開示せず、次の四半期(累計)の予想を開示することでも許してもらえます。
この場合、様式どおりに2Q予想+通期予想をして、さらに次の四半期の予想も開示することもOKです。
また、業績の変動幅が大きい場合には、一発数値での予想ではなく(こちらが原則)、レンジでの予想もOKとされています。
この場合には、定性的情報のパートで、レンジ予想にしている理由のほか、レンジの上限・下限での前提を説明することが求められます。
原則として不要なのですが、個別業績予想を開示する場合には、サマリー情報の次に3ページ目を設けて記載することとされています。
Ⅲ 四半期財務諸表
・四半期C/F、四半期セグメント・・・省略可能ですが、決算発表時に公表できるなら開示してほしいというスタンスです。
開示する場合には、累計ベースでの開示になります。
・四半期P/L・・・基本的には累計ベースでの当期・前期比較(当四半期連結累計期間 vs 前年同四半期連結累計期間)になります。
3ヶ月間のP/Lは原則として省略可能です。
ただし、「四半期報告書」(法定のほう)における3ヶ月P/Lと、「四半期決算短信」(取引所への適時開示のほう)における3ヶ月P/L(当四半期累計-直前四半期累計、例えば、3Q累計-2Q累計=3Qのみ、など)とが、売上高や各利益(税引前利益も含む)のいずれか1つでも重要な差異がある場合には、四半期決算短信において、必ず3ヶ月P/Lもあわせて開示することが求められています。
なお、3ヶ月P/Lを開示している場合には、セグメント情報も対応する3ヶ月間で開示することが求められています(蛇足ですが、3ヶ月P/Lを開示している場合の、3ヶ月C/Fについては記載を求める記述がありません)。
・個別F/S・・・開示不要とされています。
Ⅳ 適用初年度の対応
これまでも東証では「四半期財務・業績の概況」の開示を求めてきたので、新たに制定される「四半期決算短信」での前期当期比較はそのままスムーズに移行できるように思われますが、これまでの四半期情報はあくまでも任意、今後の四半期決算短信における四半期F/Sは、「四半期財務諸表に関する会計基準」および同「適用指針」のほか、「四半期財務諸表等規則」に準拠した法定のものと同一、という立てつけになります。
したがって、準拠している会計基準が同一でないものを、単純に上段・下段の比較形式では記載できないと考えているようです。
そのため、
・前年同四半期の経営成績については、前年の「財務・業績の概況」に記載していた数値をそのまま使って構わないが、前年同四半期増減率については「-」と記載し、単純比較で何%増/減とは書かないようにしています。
・四半期P/L、四半期C/F、四半期セグメントについては、前年の「財務・業績の概況」で記載していたものを使えます。
しかし、基本のフォームで想定しているような左右対比で前年・当年を対比するのは、先に述べた理由により不適切なので、並べて表形式で書くのではなく、いちいち別ページに記載せよ、としています。
・しかも、今度の1QからEDINETだけでなく、東証のTDNetもXBRL対応になりますので、前年の四半期F/S等を記載する場合には、当年度の四半期F/SをXBRLで、前年の四半期F/SはPDFで開示せよ、ということになっています。
いや~ん、面倒~~
(ただ、初年度なので、新TDNet稼動後、一定期間は当年度分も含めて全部PDFでよい期間が設けられる見込みです。しかし、その期間を過ぎてしまうと、原則どおり、新TDNetで当年のF/SのXBRLを作成し、開示するという手順になるのだそうです。)
このあたりの新TDNetの操作に関するセミナーは、3月に開催予定のもようです。
こちらも出席しておかないとなぁ・・・。
いやー、想像はしていましたが、EDINET(金融商品取引法に基づく法定開示)も、TDNet(適時開示規則に基づく任意開示)も、金融情報インフラがそろってXBRLに移行する(といっても、文章部分はPDFでつぎはぎ状態)のと、四半期F/Sというまったく新しい会計情報とが、そろって導入されてきますので、落ち着いて、早め早めに作成に取り掛からないと大変なことになりそうな予感・・・
2月、3月は、各種セミナーや説明会がめじろおしです。
ディスクロージャーに関する実務は、毎年毎年、次から次へと大波が押し寄せてきている感じです。
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