企業のポイント発行は負債計上が国際的な流れに | IR担当者のつぶやき

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上場企業に勤務する公認会計士の、IR担当者として、また、一個人投資家としての私的な「つぶやき」です。

ときどきIR担当者的株式投資の視点も。

7/25付 日本経済新聞夕刊トップに、「買い物の『ポイント』、発行時は全額負債計上、国際会計基準理、初の統一指針」という記事がありました。


国際会計基準理事会(IASB、ロンドン)は、小売業などの企業が発行するポイントの会計処理に関して、統一指針をまとめたというものです。


これによれば、企業が顧客に対してポイントをはこうした場合に、その分は売上に計上せずに、負債として計上するということです。

具体的には、スーパーやクレジットカード会社のポイントや航空会社のマイレージなども対象となる見込み。

適用時期は、2008年7月以降に開始する決算期からの予定。


日経が例として挙げているのは、こんなケースです。


(例)顧客が10万円の商品を購入し、企業が1,000円のポイントを発行した。

 →売上計上額99,000円、負債計上額1,000円


 おそらくこんな仕訳になると思います。

 (借) 現 金 100,000 (貸) 売 上 99,000

                    負 債  1,000

負債勘定は・・・・、「未使用ポイント」とか、何とか、そういう名前になるのでしょうかはてなマーク


 なお、未使用ポイントは、有効期間が過ぎて顧客が利用する可能性がないと判断されれば、その時点で売上への計上を認めるもようです。


 (借) 負 債 1,000 (貸) 売 上 1,000


 こんな感じでしょうねぇ。

しかし、売上の原因となった取引のあった期とは異なる会計期間に、「営業外収益(雑収入)」とか「特別利益」ではなく、「売上」にしてしまうのはどんなもんでしょうね・・・。


現在、日米を含む主要な会計基準でポイントに関する統一ルールは存在していないとされていまして、もしも国際会計基準との整合性を図ることを進めている日本が、このルールに即した会計基準を整備するとなれば、企業業績に関するイメージに与える影響は多少でてくることになるでしょう。


いくつかの企業では、ポイント引当金を計上していますが、この場合は売上は100%計上されているはず。

それが、ポイント分だけ売上が目減りする(ポイント引当金繰入額という費用も減少するはずですが・・・)ことになり、新基準の導入により、売上成長が鈍化したように見えると思われます。


日経の記事では「指針適用なら損益に影響も」となってますが、ポイント発行時の会計処理でいえば、売上が取り消される分が、ポイント引当金繰入額(=費用)に相当するはずですので、営業利益等に与える影響はないと思います。


・ポイント引当金計上の場合

 (借) 現 金 100,000 (貸) 売 上 100,000

 (借) ポイント引当金繰入額(費用) 1,000 (貸) ポイント引当金(負債) 1,000


もちろん、ポイント発行企業はその会計基準を適用しなさい、ということになるのでしょうから、これまでポイント引当金の計上が任意であったことからすれば、新たに会計処理する企業にとっては、利益が減少することになる話ですから、日経の指摘はこの点を言ったものだと考えられます。


日経の記事では、2006年度決算では合計で2,700億円を超えたとされています。


ポイント引当金の期末残高を、いくつか、EDINETで調べてみましょうか(カッコ内はEDINETコード、数値は連結B/Sに基づく)。


ヤマダ電機(431154) 2007/3期: 12,619 百万円(総資産比率2.29%)、 2006/3期: 13,957 百万円

ビックカメラ431515) 2007/2中間期: 11,407 百万円(同 5.79%)、2006/8期: 11,353 百万円


クレディセゾン(431036) 2007/3期: 36,205 百万円(同 1.57%)、2006/3期: 29,023 百万円

 (ポイント無期限のクレディセゾンでは、ポイント交換引当金は固定負債に計上されています。)

ジャックス(941020) 2007/3期: 560 百万円(同 0.02%)、2006/3期: 452 百万円

OMCカード(431030) 2007/2期: 3,034 百万円(同 0.50%)、2006/2期: 1,930 百万円

 (OMCでは利用促進引当金という名称ですが、2007/2期よりポイント有効期限が2年間となったため、固定負債に計上。前年は流動負債。)


カルチュア・コンビニエンス・クラブ(941357) 2007/3期: 376 百万円(同 0.32%)、2006/3期: 329 百万円

(Tカードの加入・利用を促進しているCCCですが、意外と少ないなぁという印象です。)


日本航空(651011) 2007/3期、2006/3期とも、記載なし

全日本空輸(651002) 2007/3期、2006/3期とも、記載なし

 (やっぱり航空会社のマイレージは、記載がないです。会計方針すら掲載してない。)
Wikipediaの「マイレージサービス」の項目 によれば、 英エコノミスト誌では、2005年に全世界の未使用マイルが約14兆マイルあり、平均交換レートが1マイル=約5セントと計算できることから、全世界のマイレージ総額は約7,000億ドルと試算できるそうです。


いくつか、思いつくままに挙げてみましたが、みなさんのご存知の企業では、いくらくらい計上しているでしょうかはてなマーク

一応、確認しておくとよいかもしれません。


また、会社によっては株主優待引当金を計上しているケースもありますが、このポイントの負債計上に関する会計処理が契機となって、一緒に株主優待についての会計処理も規定されてしまうかもしれません(推測モード)。

あるいは、監査法人の指導により、ポイントだけでなく、株主優待についても、売上高控除・負債計上の会計処理がスタンダードになっていく可能性もあります。


株主優待で人気を保っている企業に投資の個人株主のみなさんは、もう一度、投資先企業の貸借対照表をチェックしておく必要があるでしょう。



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