上場制度整備懇談会 中間報告を読む(その1) | IR担当者のつぶやき

IR担当者のつぶやき

上場企業に勤務する公認会計士の、IR担当者として、また、一個人投資家としての私的な「つぶやき」です。

ときどきIR担当者的株式投資の視点も。

3/27にようやく東証のHPにアップされたようですね(http://www.tse.or.jp/listing/framework/conference.html )。


全文と概要と両建てになっています。

概要は3ページもの、全文は36ページもあって会社法やら諸外国の制度の紹介やら盛りだくさん。

IRや株式事務に携わる方なら、一度腰を据えて全文を読むほうが良いと思いますが、興味本位の方は概要で十分かと。

しかし、概要を読んでも、相当に省略された書き方がされていますし、「引続き検討すべき」とか「慎重に判断すべき」とか、先送り的な書き方が多いので、なんだかなぁ、という気もします。


すべての論点について、改めて解説できないですし、本文を読めばよいわけですから、ここでは気になった点だけ触れることにしましょう。


1.企業行動に関する制度の整備

(1) 適時開示のあり方

・会社情報の適時開示は、証券市場における合理的かつ公正な価格形成を確保し、投資者の証券市場に対する信頼の根幹をなす重要なものであることから、投資判断上重要な情報が的確に開示されることが重要である。
・形式的な基準には該当しないものの、投資判断上の重要性が実質的に高いと考えられる事象について開示が行われるよう対応を図ることが望ましい。

「実質的」な判断を上場会社に委ねる、となると当然開示しなくてよいと思った、とかの言い逃れをする会社が出てきますよね。そのあたり、中間報告でも考慮されていて、全文のほうでは「メルクマールや具体的な開示事例をガイドラインにおいて示すことなどにより、一定の配慮を行うことが望ましい」としています。

しかしねぇ、結局、その事例やガイドラインが線引きの役目を果たすわけだから、形式基準ないし軽微基準と同義なのでは?と思ってしまいます。つまり、ルールがどんどん膨らんでいくだけ・・・。

今の適時開示規則だって、ある事象が起きたときに、該当の項目に合致するかどうかだけでなく、他の項目に合致していて開示もれになる可能性はないか?と気を使わなければならないのに、結局のところルールブックばかりが肥大化していったら、事実とルールの照合に時間がかかってしまい(しかも後で東証に怒られないように、チェックリストや複数人でのチェック作業をしたという証拠を残したほうがベターなのでしょう)、その日のうちに適時に開示できない可能性のほうが高くなるような気がしますね。

何だか、本末転倒だなぁ。


・上場会社本体の開示に関する軽微基準については、配当等の一部の情報を除き、原則として連結ベースに見直すことが適当である。


簡単に言ってくれるよ!

例えば、やや前時代的な連結決算のしくみを取っている会社、つまり、単体は財務会計システムで随時会計処理しているが、連結は、子会社・関連会社も多くなく、帳簿外、すなわちExcel等で精算表を作って連結修正仕訳を加味して連結財務諸表を作成しているケースを想定してみてください。

適時開示規則にあるように、利益の30%とかだけではなく、(連結)総資産の10%だの、(連結)純資産額の10%だのと言われるようになったとしたら、決算整理のとき以外に、連結純資産額がすぐに判明しますか?

ましてや、連結会社間取引が月々あって、それを月次で把握してからでないと、月次連結財務諸表を作成できないとしたら・・・?

あるいは、月次決算のタイミングでは連結財務諸表はできているが、開示すべき事実が生じた時点の連結数値で判断しろといわれたら・・・?(まあ、前月末数値で判断すればよいのでしょうけれど・・・)

新興企業で、全グループに連結財務諸表作成システムを導入する余力はないけど会社数は多い、という上場会社にとっては、けっこう困ると思いますよ。

意外にそういう方向だと、連結決算システムを販売している会社に需要が発生したりしてビジネストラスト(HC・4289)とか、ディーバ(HC・3836)とか。


(2) 企業行動に関する行為規範の制定

・東証は、株主・投資者保護及び公正かつ健全な市場の運営という観点から、自由な企業行動を過度に制約しないよう留意しつつ、企業行動の行為規範を制定することが適当である。


・行為規範の内容としては、コーポレート・ガバナンスに関する基本的な事項や、親会社を有する上場会社における親会社出身ではない社外役員の選任、MBOや支配株主との重要な取引等における利益相反の弊害を防止するための措置の実施などが想定される。

コーポレート・ガバナンス報告書や非上場の親会社決算の開示などは、すでに実施されていますね。

全文ではこんなことも言っています。

① 従来から上場会社に要請してきた事項:株主総会における議決権行使の促進に向けた環境整備(株主総会の分散化、招集通知の早期発送、ホームページ掲載、英訳を含む)、インサイダー取引の未然防止に向けた体制整備

② 規範的要素を含む上場諸規則:買収防衛策の導入に係る尊重義務、望ましい投資単位の水準への移行・維持に係る努力、株式分割等に係る努力

株主総会の分散化のために、招集通知の早期発送といっても、日程的に結構無理があります。この辺は近々、決算スケジュールについてのトピックを書こうと思っているので、しばしお待ちを。

望ましい投資単位とか、株式分割の努力義務とかは、正直、大きなお世話という気もします。

任天堂(7974)なんて、投資金額340万クラスですからね。ようやく日本M&Aセンター(2127)も4分割されましたが・・・。別に、金額が大きかろうが、小さかろうが、その会社の戦略の範疇かと思いますけど。

任天堂が株式分割して50万くらいで買えるようになったら、株主が一気に増加して、かえって株主管理コストが膨れ上がる気がしますね。まぁ任天堂なら、そんなコスト、ものともしないでしょうが。

MBOの利益相反の問題については、昨日・今日と日経新聞でレックスHDのMBOのケースを取り上げて、西山社長のインタビューなどが掲載されていましたね。


・株式の発行について株主の同意を必要とするなどの規範及び社外取締役の設置や社外役員の独立性に関する事項を含むコーポレート・ガバナンス全般のあり方については、本懇談会としては引き続き検討すべき事項であると考える。


転換価額修正条項付転換社債(MSCB)の発行や大規模な新株発行による、株主価値の希釈化がしばしば問題になります。

会社法では、定款変更で発行可能株式総数を引き上げようとしても、発行済株式総数の4倍以下という制限がつきます(いわゆる4倍規制)。アメリカでは4倍規制はないそうですが、証券取引所のルールとして公募以外で20%以上の株式発行については、株主の承認が必要としているようです(NYSE)。また、イギリスを含むヨーロッパ各国では株主割当が原則であり、イギリスの上場規則・会社法の双方で、株主以外への割当は株主総会の特別決議が必要と定めているんだそうです。

このへんは難しいところですね。

会社の財政状態がピンチのときに、(多少、既存株主の株式価値を犠牲にしてでも、現経営陣が)機動的に資金調達できたほうが結果的にアウトにならずに既存株主の株式価値の損耗を食い止めたと考えるべきか、資金繰りはともかく、まず既存株主に信を問え(その結果、資金繰りが追いつかず株式価値が著しく損耗するかもしれないが、やむを得ない)という原則論を振りかざしていくのか。

引続き検討しても、果たして答えが出るのかどうか?


(3) 子会社上場制度のあり方

子会社上場は必ずしも推奨されるものではないという東証の基本的なスタンスを公表するべきである。


へぇ~、いろいろ言われていたけど、やっぱりそうなんだぁ。


・少数株主との利益相反による弊害などを防止するための措置を充実させることが適当である。

具体的に書かないと、なぜ?と思う人がおそらく多いと思います。

全文では、こんな弊害を挙げています。

・利益相反・・・株主全体の利益を犠牲にして、親会社の利益を図った経営をするリスクがある。

・親会社の短期的な決算対策としての上場

・上場後短期間での完全子会社化

・上場親会社が同じ事業を行っている中核子会社を上場させることによる新規公開に伴う利益の二重取り etc。


・子会社上場に関する新規上場審査のあり方についても、引き続き検討が行われることが望まれる。


これも具体的に。

・上場審査基準として、親会社等に対する一定の独立性があるかなどをチェックしています。

 一部指定の審査ではやっているけど、それ以外は求めておらず、既上場会社が親会社を有することになる場合は審査対象外。

・親会社等の重要な会社情報の適時開示義務(決算情報や決定事実、発生事実など、上場会社なみの重要事実の開示を求めてます)

・そのほか、親会社等を基点とした企業グループのなかで、当該上場会社がどんな位置づけなのか、親会社等からの独立性の確保の状態を説明しなければならなかったり。

親子上場はNECグループがいろいろ無茶してくれたおかげで、物議をかもしたなぁと思います。


(続く・・・)