東証「上場制度整備懇談会」、マザーズ企業に風当たり厳しく | IR担当者のつぶやき

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上場企業に勤務する公認会計士の、IR担当者として、また、一個人投資家としての私的な「つぶやき」です。

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東京証券取引所が設置した「上場制度整備懇談会」では、3/19に中間報告の概要を発表したとのこと。

http://www.nikkei.co.jp/news/main/20070319AT3L1904S19032007.html


さっそく東証のHP(http://www.tse.or.jp/listing/framework/conference.html )を見に行きましたが、まだ当該報告はアップされていないご様子。


かの日興上場維持問題等を巡り、上場企業が法令に違反した場合の処分が「上場維持(注意勧告)←→上場廃止」と極端であることから、その中間段階の処分として、制裁金の徴収や東証1部などとは別の特別市場への懲罰的な割り当てを加えることなどが検討された模様です。


同懇談会の取りまとめ後、東証に提言し、上場制度総合整備プログラム(http://www.tse.or.jp/listing/framework/index.html )の改定を実施する方向だとか。


まぁ、課徴金なり制裁金なりは、市場を混乱させたペナルティとして徴収したうえで、東証により市場整備なりに遣えばよいのでは?と思いました。

が、該当の記事で、見逃せないことが!!


「また同懇談会は、上場企業の質が問われている新興市場マザーズにも言及。マザーズへ上場した後に一定期間を経過した企業が所定の成長を達成できなかった場合、上場を廃止する措置の導入などを求めた。」


おぃおぃ、それって自ら設置した新興市場の自己否定じゃ?

いくら最近、新興市場の会計不信が激しく、株価低迷が著しいからって行き過ぎでは・・・?と思います。

「一定期間経過」・・・いったいどの程度を見ているのか。3年?5年?

「所定の成長」・・・企業の成長を何で計ろうというのか?売上?営業利益?当期純利益?赤字企業はどうする?


最近、確かに市場からの退出ルールの明確化、ということが議論にのぼることが多いです。

そりゃあマザーズは新興成長企業のための市場です、というキャッチフレーズは良いかもしれませんが、成長を義務付けて、達成できなかったらクビ(=上場廃止)!というのでは、場合によってはますます粉飾を助長する可能性もあるのではないかしらん?


マザーズの上場基準(http://www.tse.or.jp/mothers/guide/2.pdf )では、売上高は上場申請日の前日までに計上されていればよく(実際には、上場申請直前期の売上高が1億円未満で、経常利益が計上されていない場合、事業計画の概要を求められるなど、審査的には厳しくなるようです)、しかも「純資産額」基準「利益」基準が設けられていないため、債務超過や赤字企業でも上場できるというのが建前です。


最近じゃ、証券会社も厳しくて、さすがに利益が出ていないとねぇ、という話でしたが、3/16上場のUSJ(マザーズ・2142)は、見事に直近3ヵ年とも経常赤字かつ当期純損失ですもんね。まぁ、主幹事・野村證券とゴールドマンサックス証券のパワーを見よ!というところでしょうか。


私が心配しているのは、上場後数年経って、順調に業容を拡大しているところで、さらなる事業拡大のために他社を買収したりして著しく多額の「のれん」を計上し、その償却にあえいでいるような場合、どう判断するんだろうか?ということです。


そう、ご存知、ACCESS(マザーズ・4813) や、以前のアプリックス(マザーズ・3727) などがそうですね。

ACCESSはパーム買収のためにけっこう無理しましたからね。MSCBで速攻の資金調達をして、多額ののれん償却でここ2期ほどは業績的には期待できない状態となっています。

ACCESSの株主総会などでは、たびたび上場しないのかといった質問が株主から出ておりますが、赤字じゃ厳しいですよね。


私個人的には、ACCESS大好きですし、応援もしています。

こういう世界にはばたく企業こそ、成長企業の称号にふさわしいと思います。

(シビアなデイトレーダーさんあたりからは、儲けてなんぼといわれそうですが・・・。)


で、やっぱり積極的な赤字と消極的な赤字(事業的に成立してない、あるいは、上場時の事業がすべったセラーテム(HC・4330)のようなパターン?)とがあると思うんですよね。

そういったあたりを、「上場制度整備懇談会」がどう勘案してくるのか。

早く中間報告とやらを確認したいものです。

東証も自らの作った市場の自己否定につながるような愚は避けていただきたいと願っています。


久保 幸年
上場基準・上場審査ハンドブック