マイ:ロスタイム:ライフ 聖なるバレンタイン編 | I Pray For...

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ショートショートやナチュラルストーンのハンドメイドアクセサリーなど、
何かを書いたり作ったり。羽生結弦選手について勝手に語ったり。
好きな音楽や芝居のことなども時折熱く語ります?

ロスタイムライフ。

それは人生において無駄に過ごしてしまった時間の貯金を、死を迎えることになった主人公達が

最期の人生を過ごす時間のこと。


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別に・・・っていって反感を買ってた若手女優が居たっけ。



でも、私の人生だって取り立てて何もない「別に」っていう感じ。取り立てて何があるわけじゃない。


いうなれば連続ドラマのオフィス風景で、制服(何故かピンク色が多くない?)着て、

PCに向かって何かしている「エキストラA」みたいな、「OL」というカテゴリーに属して6年。

大きな波風もなく、ただ毎日を過ごしていた。



楽しいこともそこそこ、悲しいこともそこそこ。それが、私。可もなく不可もなく、平凡だけど別に不幸じゃない。


平凡だけど別にそれほど幸せじゃない。それが私。





14時半。珍しく風邪を引いた私は、微熱もあるし、急ぐ仕事もないのをいいことに早退届を書き、

お昼のベルがなると同時に会社を出た。13時まで受付のクリニックで診察を受け処方箋をもらい、

後10分程度でアパートに着く位の距離にある十字路の辺りにいた、そのときだった。



突然響く急ブレーキの音。目の前には突然飛び出してきた大型バイク。え?なんで?一方通行逆走?

轢かれるっ!反射的に目を閉じた。



走馬灯のようによみがえる過去。幼稚園の入学式。着物姿の母と制服姿の私をカメラに収める父。

3歳違いの弟を初めて泣かした時の顔。高校の入学式。初めてつないだ手etc、etc。

あぁ、私、ここで死んじゃうのね。あんな大きなバイクに轢かれるなんて相当痛いんだろうな・・・。

死ぬくらいだから当たり前か・・・。



「ビーッ!!!!!!!!」



えっ?なに?


ホイッスル?突然バイクの後部座席から黄色ポロシャツと黒のパンツの男がホイッスルを

口に咥えて降りてきた。そして気が付くと、ホイッスルの男以外にも旗を持つ男が二人、

そして電光掲示板を持つ男が一人が私を囲んでいた。さっき飛び出してきたバイクは、まるで凍りついたようにそのままの姿で止まっている。


あれ?私、死んでないの?



「ビーッ!!!!!」



ホイッスルの男が首を振りながら電光掲示板を指差す。3:47?いったい何これ?



するといきなり頭の中に聞き覚えのない知らない声が飛び込んできた。



「高原美咲選手、享年27歳。死因は一方通行を逆走してきた大型バイクによるひき逃げで即死ですね。

ほぅ、今回のロスタイムは3時間47分ですか。まぁ、妥当な線ですかね。

今回の解説者は西田さん、中継は私、青嶋です。」



「そうですねぇ、青嶋さん。27歳でこの時間なら丁度良い時間じゃないですか。

程ほどの人生を歩んできた方の平均的な時間といえるでしょう。さぁ、彼女がこのロスタイムでどんな行動をするのか。楽しみですねー。」



え?ロスタイム?あのサッカーとかの?えっと、ちょっと待って。


「ねぇ、私、あのバイクに轢かれて死んでるの?」


審判団と思しき彼らは同時に頷く。素晴しき同調性。


「ロスタイムって、死ぬまでこれだけ時間が残されてるって事?」


同じく彼らは同時に頷く。やはり素晴しき同調性。


・・・って言われても、あなたはもう死んでます。つきましてはロスタイムが発生していますから

何かしていいですよって言われても何をすればいいの?



まずは冷静に考えてみよう。とりあえず、バッグ。よかった、バイクの下敷きにはなってない。

ペットボトルを取り出して、ミネラルウォーターを一気に飲んで、気持ちを落ち着ける。



私に残された時間は3時間チョット。その間にできることといえば・・・。

田舎ですっかり隠居生活を楽しんでいる両親に逢いに行く時間は、ない。さらに弟は海外出張中。

電話するしかないか、でも話すと泣いちゃいそうだからメールかな。これは後でできる。

仕事の引継ぎ?んー、そこまで仕事に熱意がないから却下。


「どうやら、何をしたらいいのか解らないということで悩んでいるようですね、西田さん」


「プロフィールを見ますとですね、そこそこの人生をそこそこ歩んでいるらしいですね。

可もなく不可もなく。となると、難しいですよ。彼女はこの場を動けるんでしょうかね。」



うるさいよ、頭の中の解説者たち。そこそこの人生だなんて、あんた達に言われたくない。

そもそも大きなお世話でしょ。そんなの私が一番よくわかってる。


「ピ、ピーッ!」



審判が私の腕を握った。胸ポケットからイエローカードをちらちら見せている。


「なによ、何かしないとイエロー出すって言うの?」



審判は笛を加えたまま頷いた。


「わかった、わかったわよっ、何かすればいいんでしょ、何かすればっ!」


いつの間にか私の両端にいたフラッグをもった審判二人にせかされて小走りで走りながら、

ふと浮かんだ顔が一つあった。


でも、無理だよなぁ。きっと仕事中だろうし。思い浮かんだ顔は直ぐうち消して、

とりあえず銀行でありったけのお金をおろしてみた。



そういえば、お母さんが欲しいっていってたピアスがあったよね。父さんはカメラのレンズが

欲しいっていってた。弟にはネクタイでいいよね。なんとか貯金で買える。

残しておいても仕方ないし、とりあえず、買い物に行こう。プレゼント買おう。

でも、会社の人に見られたらなんていわれるかな。あ、もう死んでるんだから関係ないか。



20分ほどで、池袋駅に到着。ビッグカメラに西武にと廻って、いろいろ書くこと考えたけど、

結局「ありがとう」としか書けなかったメッセージカードを添えて最後のプレゼントを送る手はずも完了。


手元にはあと1万円。残り時間はあと2時間ちょっと。もう、することなくなっちゃった。


ふと辺りを見回すと、平日だっていうのに、やたら着飾った女の子達が溢れているのに気が付いた。


そういえば、今日はバレンタインだっけ。あちらこちらでチョコの臨時売り場があったよなぁ。

審判員達がなにやら美味しそうなチョコをチラチラ見ている。仕方ないなぁ、買ってあげるよ。



「すみません、そのチョコ4つ」



「おー、こんなケースは初めてですね。彼女が、審判員にチョコを手渡しています。

今まで無表情だった彼らもかすかに笑顔がこぼれました。しかし、我々にないのが寂しいですね。

でも、これは買収行為に当たったりしませんか?」



「まぁ、今日はバレンタインですから。その辺は大目に見てるんじゃないですか?」



「はい、ホイッスルさん」



すると、ホイッスルを咥えた彼は首を振り、いきなりイエローカードを取り出した。



「なに?なんなの。人の好意をイエローカードって!」



「おーっと、西田さん、ここでやはりイエローカードが出ましたよ。後1枚でレッドカード。

人として生まれ変わることが出来なくなります。」



「タニシに逆戻りなんですよね。ロスタイムライフの一番怖いところです。」



ホイッスルさんは、私の差し出したチョコをバッグの中に無理やり詰め込んで、

次の行動をするように促している。



「別にもうしたいことなんてないわよ、家族にもプレゼントも贈ったし。」



彼は頭を横に振り続けている。そして、私のバックに無理やり詰め込んだチョコを指差した。



「彼に渡して来いっていうの?」



彼、っていったて付き合っているわけじゃない。

もう、3年も片思いしている友達。友人の紹介で知り合ってから、ずっと好きだった彼に

まだチョコってあげたことない。



何故って義理チョコなんて嘘は通用しないくらいには彼は私の気持ちに気が付いているから。

でも、友達。友達以上でも友達以下でもなく、友達。



そういう形で答えをずっと出され続けてるから渡せるわけもなく、気持ちを伝えられるわけもなく、気が付いたら3年。


彼が好きだという気持ちのフェードアウトだけを願っていた、そんな情けない恋のお相手。



「嫌だよ、きっと仕事中だし。いきなり押しかけたら迷惑でしょ?彼に嫌われたら私、

そんなことになったら・・・し・・・」



「ビーッ!!!!!!」



ホイッスル音が響く。



「・・・って、私、もう死んでるんだっけ・・・。」



審判団がいっせいに頷く。あまりに完璧な同調性になんだかおかしくなってきた。


そうだ、私もう死んでるんだ。嫌われるとか嫌われないとか、そんなレベルじゃなくて、

もう、どうしようもないんだっけ。完璧に叶わない恋になってしまった。でも、3年の間、何も出来なかったのに、死んじゃうからって、ロスタイムしか残されてないからって、一方的に気持ちぶつけてサヨナラってどうよ?


でも、これが最後、このロスタイムが終われば、私、いなくなっちゃうんだよね・・・。

そっか、私の恋心はものすごく中途半端なまま終わりを迎えてしまうんだ。



「西田さん、彼女の気持ちが大分揺れてますよー。どう出ますかね。」



「うるさいっ!」



思わず大きな声で叫んだ。周りの人が一斉に振り返る。恥ずかしさと何かに背中を押されたような気がして、一気に走り始めた。



埼京線に飛び乗る。目指すは恵比寿。ここからなら20分。恵比寿の駅について、審判員を見ると、

残り時間は1時間半を切っている。



慌てて携帯電話を取り出して、大きく深呼吸。そういえば、私、彼に電話を掛けるのって初めてかもしれない。いつもメールだし。心臓がバクバクと音を立てている。おかしいな、私、死んでるのに、今、生きてるなぁって思うよ。



呼び出し音が左耳に大きく響く。5コール目。



「この電話を転送します。・・・留守番電話サービスに接続・・・」



留守番電話?どうしよう、勢いだけで此処に来ちゃったけど、電話つながらないなんて思ってなかった。

ここに来れば逢えるって勝手に思ってた。どうしよう、あと1時間しかないのに、もう彼に会えないのかな。

チョコ、渡せないのかな。愕然としながら電話を切った。



すると、今度は私の携帯が突然鳴った。ディスプレイには彼の名前と電話番号が表示されていた。

ありがとう、電話くれて。折り返しかけてくれて。


「あ、高原さん?俺だけど。電話もらったみたいで。出たらきれちゃってさ。」



彼の声が左耳にこだまする。



「あ、ごめんなさい、仕事中に電話して。」


「どうした?」


「小野さん、今時間ある?」


「え?今?」


「うん、会社の前に居るの。」


「うーん。」


「あのね、1分でいいんだ、ううん、30秒でいい。ちょっとだけ、時間もらえないかな?」


「そっか、参ったな。もう直ぐ会議なんだよね。」


「私、時間がないの。急に今日東京を離れることになって。もう、これ逃したら小野さんに会えないから。お願い!」


「なにいってんの?とりあえず、解ったよ、今降りてくから、受付の右の方にいて。」



電話を切って、いわれた場所に向かう。だって、東京を離れるってうそじゃないし。

だって、この世から居なくなるんだから。そもそも、死んじゃうなんていって、同情買うよりマシ。



「なるほど。彼女のプライドが良い方向にむかいましたね。生きてる人に自分の死を伝えてしまう、

要するに「死んでしまう」といったらイエローカードがでて、即退場でロスタイム終了。

生まれ変わりさえ出来なくなってしまいますからね。」



「まさにナイスディフェンスですね、西田さん。」



何がナイスディフェンスだ。生まれ変わり?そんなの関係ない。でも、此処に来て解った。

ロスタイムに清算しなくちゃいけないのは不毛な恋心。これだったんだ。



エレベーターで降りてきた彼は明らかに不審な顔をしている。



「なに?東京を離れるって。田舎に帰るとかそういうの?」


「ううん。もうちょっと遠いところ。もう帰ってこれないの。だから、ハイ」



さっき、ホイッスルさんから返されたチョコを彼に無理やり押し付けた。



「我侭聞いてくれてありがとう。逢えて嬉しかったよ。」



ホイッスルさんが、「0:53」となった電子掲示板を指差して、走れ!というジェスチャーをする。

そっか、もうあの場所に戻らなくちゃいけないのね。死ににいかなくちゃいけないんだ。

丁度よかった、これ以上彼の顔を見てると泣きそうだし、うん、走るよ。



「え?ちょっとちゃんと説明・・・!」


「ごめん、時間がないんだ。じゃあね!会議頑張って!」



手を振りながら、走り始めた。けど、最後の一言を言ってないことに気が付いて、

背を向けたばかりの彼に向かって叫んだんだ。



「あのね!小野さん、大好きだったよっ!」



驚いて振り向いた小野さんの何がなんだかわからないって顔がちょっと面白かった。


ホイッスルさんにせかされて全速力で走って改札を抜け、電車に飛び込んだ瞬間、突然涙が溢れてきた。

どうせならって、大きな声を出して泣いてみた。だって、もう死んじゃうんだから人の目なんて関係ない。

終わった恋に涙を流すのは当然なんだから。



途中、審判たちに支えられながらも、なんとか元の場所に戻ってこれた。

思いっきり泣いたら、なんだかすっきりして、バイクの前に立つことも抵抗がなくなっていた。


電光掲示板は0:02。もう間もなく終わる私のロスタイム。



「ホイッスルさん、チョコあげられなくてごめんね。」



そう、彼だけ結局あげられなかった。でも、ホイッスルさんはゆっくり笑って頭を横に振ってくれた。


あぁ、小野さんはあのチョコ食べてくれたかな。きっと何がなんだかわからなかったろうな。

いきなり現れて、訳の解らないこと言って消えてくなんてって怒ってるかもしれない。


でも、いいや。これで多少は小野さんの心の中に私が残るもの。ちょっと悪女気分で楽しくなってきた。

そんなことを考えていながらバイクの前に立った私を、3時間47分前と同じポーズにしようと審判員達が立ち位置やバッグの位置などを微調整してる。



「好きだって言わせてくれてありがとう。私、はじめてだったんだ、人に好きだって言ったの。」



審判たちもにっこりと笑った。なかなか充実したロスタイムだったわ。

最後駆け足で滑り込みセーフだったけど。



さぁ、電光掲示板が「0:00」になる時間が近づいている。

ありがとう、お父さん、お母さん、弟。ありがとう、今までかかわってくれた人。

そして、ありがとう、小野さん。最後に困らせてごめんね。


なんにもない人生だと思ってたけど、こうやってありがとうって言えるんだから、何にもなかったはずがないよね。


生まれた時にお父さんとお母さんに出会った、そして、その後いろいろな人に出会ってきた。

好きだと思える人にも出会えた。短かったけど、決して悪くなかった私の人生だって今思えるよ。


あぁ、ブレーキ音が大きくなって私の耳を多い尽くす。バイバイ、みんな。右手を大きく振って、

私の体は空に向かって、跳んだんだ。バイバイ、幸せだったね、私。


Fin

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うん年前にドラマ「ロス:タイム:ライフ」に影響されて書いてみたショートストーリーです♪