そんなの嘘だ。どうして?あたしは認めない。
確かにそこにあの人は横たわっていて、そして今まで見たことのない
青ざめた顔色をして目を閉じているけれど、そんなことあたしは認めない。
こんな地下の薄暗い部屋はあの人には似合わないから、あの人の手を引いて
この部屋から出たいんだけど、いくら引っ張っても起きてはくれない。
どうして起きてくれないんだろう?ねぇ?どうして?どうしてなの?
どんなに問い掛けてもあの人は答えてくれない。
いろいろな人たちが入れ替わり立ち代わり、あの人の周りに白い花を飾る。
あたしは白い花のように、頭の中は真っ白で何かを感じることも
考えることも放棄している。わかっているのは今、隣にあの人がいないことだけ。
誰かがあたしに何かを言った。それはとても悲しい言葉だったような気がするけど
言葉たちはあっという間に白い世界にとけてしまったきり。
夜中の長電話も、週末の約束なんてなくても、あの人がいないことの理由になんてならない。
そう、あたしの側にいないことさえ理由になんてならないんだ、ならないんだ。
時間だけがあたしの前を通り過ぎる。あたしは今もあの場所にいて、あの時間から
抜け出せないでいる。
凍てついた唇は、あの人のくちづけを待っているのに。あの人の唇がみつからない。
凍てついた体は、あの人の抱擁を待っているのに。あの人の姿がみつからない。
まだ、あたし、さよならさえ言っていないのに。まだ、なにひとつ言っていないのに。
あたしのなかで、言えなかった言葉たちが今日もまた一つ息絶えていく。
凍てついたあたしの心とともに。