職人の反応がなくなって五分ほど経った頃に
救急車のサイレンが聞こえた
三人の救急隊員がバッグやら簡易ベッドを車から
降ろしながら「患者はこちらですか?」と
間の抜けた声で交番に入って来た。
「はやく!とにかく急いで!」
救急隊員たちは緊急を要する現場の状況を
把握するとそれぞれが的確な動きをはじめた。
ひとりはペンライトで病人の瞳孔を確認し
ひとりは警官を押しのけると人工呼吸器を
患者の口に充てて脈を診ている。
もうひとりは女性隊員で記録をとりながら救急本部と
無線を取り合っている。
「駄目だ。生体反応ありません」
「確認時間は・・・現在8時21分」
「おそらく気管が火傷を起こし呼吸困難に陥ったものと思われます」
「さっきまで何かしゃべっていたらしいのですが」
「それは何分前の話ですか?」
「そこの人、そうでしたね」
いきなり私に時間を聞かれてもはたしてどのくらい前の事なのか
認識できない。
「あ、ああ。10分経ってないと思いますが・・」
「すると8時10分頃までは会話ができていたのですね」
「会話と言うか何かを伝えるように呻いていました」
そこへ泣きじゃくる娘を連れた母親らしき人物が交番へ入ってきた。
「あのう・・・娘が・・・」
「何ですか、今取り込み中なので」
「娘がナイフで刺されて」
「え!ナイフで刺された?いつ?」
「さっき泣きながら帰宅してよく見ると背中やお尻を切られているんです」
「この娘さん?大丈夫ですか。ちょっと消防の人、怪我人だそうです」
女性隊員はあわてて駆け寄ると
若い女性の体を確認した。
高校の制服を着た女性は震えて口が利けない。
制服は血で汚れており、白いブラウスの血はまだ少しずつシミを広げている。
「大丈夫。今止血しますから。深い傷ではありません。
あ、スカートにも血が・・ここも刺されている・・」
「誰に刺されたんですか?」
「見知らぬ男がナイフを持って・・公園に連れ込まれて」と母親は震えるかなきり声で答えた。
若い警官は「で、犯人は・・・」
「それは警察の仕事でショ!速くつかまえて!一体どうなってるのこの国は!」
「お母さん、落ち着いてください。まずは娘さんの傷を手当して」
「ここでは手当てできませんので病院に搬送します」
「この火傷の職人は?」
「司法解剖に回さなくてはなりませんが、先に女性を病院に」
「消防へ連絡して車をもう一台回してもらいます」
平和な街で起こった切りつけ事件に
狭い交番に続々と警察関係者が集まってくる。
街の要所々々に警官が立ち、刑事が聞き込みに回る手配がなされた
女子高生の重たい口から語られた犯人の特徴に近いものは
職務質問の網にかけられた
幸い女子高生の傷は浅手でその日に帰宅でる程度のものだったが
傷の手当が終わると刑事の質問攻めにあわされた。
そこで判明した事実にマスコミが飛びついた。
なんと女子高生が襲われた目的は
下着強奪だったのだ。
脅されて公園に連れ込まれた女子高生は背中に
ナイフらしきものを突きつけられ、犯人に逆らうことができなかった。
あのランドリー側の小さな公園である。
児童公園なのだが遊具は腐りかけた滑り台と一連の鉄棒しかない。
夜は暗く、開発の進んだ街に残された小さな緑地として
多くの樹木が残された大人も避けて通るような場所となっていた。
公園の鉄棒の下に移動させられた女子高生は
両手を上に上げ鉄棒に掴まった状態にさせられ
両手がら空きにさせられて下着を剥ぎ取られたというのだ。
その間犯人はナイフを背中、尻、頬に当て
ナイフで薄く傷をつけたという凶悪なものだった。
時間は深夜を超えた。
私は警官の無線で飛び交う単語や刑事たちの会話から
この事実を知りえたわけだ。
些細な口論に始まり、爆発事件が起こり、そして通り魔事件。
普段新聞で見るような事件が次々起こり、
だんだんセンシティックになる。
私は劇場で映画を見るような興奮を覚えていた。
つづく