「殺したる。おっさん一人ぐらい殺しても、俺ら少年法で守られてんねん」
 父ちゃんは悲しげな顔つきであきおを見ると、初めて構えた。
「あきおくんとかいうたな。最初に断っておく。おっちゃんはそれほど稽古しとらんからな、

ナイフ出されたら手加減できん。すまんが全力でいく」
 父ちゃんの顔つきが変わった。今までに見たことのない目だ。
 どうするんだろう。手加減できないって、やりすぎたら警察に逮捕されるんじゃないだろうか。
 その心配を見透かしたように、遠くからパトカーのサイレンが聞こえてきた。
「ヤバいっ! ポリや」
「あかん、俺こんど捕まったら補導だけですまへん」
「俺、父ちゃんにどつかれてまう」
 あわてふためく様子を眺めていた父ちゃんは、いつもの穏やかな顔に戻っていた。
 サイレンは徐々に近づいてくる。
「君ら、ここはおっちゃんに任せて向こう側から逃げろ」
 何を言い出すんだ、このオヤジは。そんな顔のやつらに、父ちゃんは続けた。
「今日ので足りんかったら、またいつでも相手してやるから。ただ、もうこの子らには構うな」
 父ちゃんにじっと見つめられたあきおは、渋々うなずいた。
「それとな、説教する気はないけど一つだけ。君ら、もったいない時間の使い方やめとき。

そこの君、ええパンチ持ってるがな。おっちゃんが通ってた道場に来い。世界狙えるかもしれんぞ。

それとそこの君は、ごっつぅええルックスやないか。アイドルめざせるんちゃうか。

ええか、まだ君らの人生始まったばかりや、諦めるのは早いでぇ。迷ったらいつでも相談乗るから」
 すぐそこまでパトカーが近づいてきた。
「行けっ! おっちゃんがおとりになる」
 皆、一目散に逃げ出した。
 驚いたことに何人かは、父ちゃんに頭を下げてありがとうって言ったんだ。


「父ちゃん、僕は残る」
「僕も残ります、おじさん」
「おお、そうか。なかなか見上げた根性やな。ちょっと待っとき」
 父ちゃんは何故かクスクス笑いながら、公園を出ていった。
 戻ってきた父ちゃんの手にスマートフォンがあった。
 そのスピーカーからパトカーのサイレンが鳴り響いている。
「なかなかええ音してるやろ。アラームで鳴るようにセットしといたんや。

だんだん大きくなるように設定したからな、パトカーが近づいてくる感じに聞こえたわけや」
 ぽかんと口を開けた僕の横で、啓太が手を叩いて笑った。
「最高っ! おじさん、最高だよ」
「ケンカで一番難しいのは、勝ち負けよりもどうやって止めるかやねん。若様、頭大丈夫か? 痛ないか」
「うん。もう大丈夫。血も止まったし」
「良かった。さ、とりあえずこれで悩まんですむやろ。腹減ったな、飯でも食おうで。

啓太くんも家に来なさい。おっちゃんが焼き飯か炒飯作ったろ」
「おじさん、焼き飯と炒飯って何が違うんですか」
「若様、説明したり」
「焼くのが焼き飯。炒めるのが炒飯。ちなみにピラッとしてフッてなるのがピラフ」
 結局、出てきたのはチキンライスだった。