「痛いのはまだまだこれからや。あきお、おまえもやったれや」
「ういっす。おもろなってきたな。おっさん、子供見てんでぇ、もうちょい頑張ったりぃな」
あきおって奴は蹴ってきた。爪先が父ちゃんの右横腹を狙ってくる。
父ちゃんはその蹴りをぎりぎりで避けた。
「あっぶなぁ。んなもん当たったらたまらんがな」
と、父ちゃんカッコ悪い……やっぱり茶帯じゃダメなんだな。
いったい、この人は何をしに来たんだろう。このままじゃ、僕らまたやられちゃうよ。
「ごめんな、啓太。あんな情けない人とは思わなかった」
謝る僕に啓太は言った。
「違う。よく見ろ。最初に殴ったやつ、手を押さえてるだろ? きっと拳が痛くて続けられなかったんだ。
今の蹴りだって、本当なら当たっててもおかしくないよ。おじさん、わざとやられっぱなしになってるんじゃないかな」
「なんでそんなこと」
「わかんないけど」
「おら、おまえら何ゴチャゴチャ言うてんねん」
残りのやつらが僕らに向かってきた。
中の一人が、持っていた木刀で殴りかかってきた。啓太目掛けて振り下ろす。
僕は無我夢中で飛び出してそいつに抱きついて止めた。
「離せやくそガキ! 」
木刀の端で頭を殴られ、ふらついた僕は地べたに座り込んだ。
額を温かい何かが流れていく。触った指が真っ赤に染まった。
血は、額を伝って鼻先から地面に落ちていく。
「おじさん、真吾がっ! 」
振り返った父ちゃんが、血を流して座り込んでいる僕を見た。
泣きだしそうな顔で走り寄ってくる。
「大丈夫か、見せてみぃ。うん、ちょっとかすっただけやな、痛ないか。
ハンカチ持っとったやろ、ぎゅうって押さえとき」
「おっさん、なんしとんねん。相手してんのはこっちやで」
立ち上がった父ちゃんの体がくるりと一回転する。
高く上がった右足が、首筋を捕らえるのが見えた。
相手は糸を切られた操り人形のように、くたくたと崩れ落ちた。
「できれば穏やかに済まそうと思とったんやが。おまえら、うちの宝物に何さらしてくれるんじゃっ! 」
父ちゃんが吼えた。
それからが物凄かった。父ちゃんのことをいつも冗談で熊って呼んでるけど、まさにその通りだ。
父ちゃんの足が相手の太ももに当たると、相手は立っていられなくなった。
腹を殴られた相手はダンゴ虫みたいに丸まる。
二人一度にかかってくる相手を前蹴りと後ろ蹴りで倒す。
まるで映画のワンシーンみたいだ。
とうとう最後の一人になってしまった。あきおとかいうヤツだ。
「くそったれ、おっさん空手やっとんのか! 」
あきおは、尻のポケットから何か取り出した。
陽の光に輝くそれは、折り畳みナイフだった。