「ひぃぃぃぃ」
誰かが叫んでいる。
それが、自分の声だと気づくまで数秒かかった。
俺はまた走り出した。
確か、この近くに交番があるはずだ。
営業で来た時に、道が解らずに案内してもらった記憶がある。
そこまで辿りつけば、この悪夢から逃れられる。

チキチキチキ

耳障りな音が近づいてくる。
追いつかれたら死ぬ。
振り向いて確認する時間も惜しい。

「なんなんだ、なんなんだよ、わけわかんねぇよ」
さっきから同じセリフしか出ない。
つい二十分ほど前は、いつもの日常だったのだ。
それが何故、今俺は死に追いかけられているんだ。

「わけわかんねぇ」
これ以上、一歩も走れない。
こんなに走ったのは学生の時以来だ。

あぁ。
助かった、交番だ。
日常だ。

速度を緩めぬまま、俺は交番に駆け込んだ。
そして、たちまち絶望した。

『只今の時間はパトロールに行っております』
何故、駅前の交番てのは大抵の場合パトロールに行ってるんだ。

「くそったれっ!」
怒鳴ってもどうしようもない。
ここに立てこもるか、それともまた走り出すか。
もうそこに女は迫っている。