「あ。吉次さん、また
無茶してる!ダメですよ、
ちゃんと寝てなきゃ。」


「すんまへん、もう
少ししたら寝まっさかい。なんなら添い寝しとくれやす。」

「もぅ、冗談ばっかり!」


笑顔で立ち去る看護士
を見送りながら、吉次
は呟いた。

無茶なのは判ってんねん。
そやけど、次の国立
文楽劇場は絶対に出な
あかんねや。

吉次は胃の痛みをこらえ、もう一度最初からネタを繰り始めた。


吉次は上方落語のホープとして、熱い期待
を受ける存在だった。

人が手がけないネタを
見つけ出し、「こんな
ええネタやらな
もったいない」と
ばかりに精力的に高座
にかけた。


今や彼は、ホープどころか上方落語の重鎮になりつつあった。


そんな彼の体に異変が
起きたのは99年の事。

胃ガンであった。

一度は克服したものの
昨年秋に再発し、以後
入退院を繰り返していた。