「おじさま、村を案内しましょうか?」
「沙耶加。何です、はしたない。」

鋭い成加の声にもたじろぐ様子が無い。
「だって、どんな土地か知っておかないと、お仕事に
差し支えるんじゃない?」

ねぇ、と顔を寄せてくる沙耶加に、成加も折れた。
「それはそうですが…まぁ、良いでしょう。林田様、でしゃばりな
娘ですが、村の事に詳しいのは確かです。
どうかお邪魔でなければ予定地まで案内させてあげてください」

もとより、林田に断る理由などない。
朝食後、林田は沙耶加の案内で売却予定地へ出発した。

木漏れ日が小さな光の玉を地面に作る。
いずこからか、名も知らぬ鳥の声が聞こえてきた。
小川は清流と呼ぶ以外に言葉が見当たらぬほど澄んでいる。
林田は心底、この土地が羨ましく思えた。

「本当に穏やかな良い所だな」
思わず声に出して言う。

それを聞きとがめた沙耶加が口をとがらせて反論した。
「綺麗なだけでつまんない所。あたしは都会の方がいい」

「そうかな、空も水も森もあって素敵なところじゃないか」

「でも未来は無いわ」
ぞっとするような声で沙耶加が答えた。

「未来?」

「そう。この村に、と言うよりは私たちの一族に。
おじさま、あたしを連れて逃げてくれない?」
「え?!」

「冗談よ。冗談。着いたよ、おじさま。ここがそう。」
そこは小高い丘の上であった。
村が一望のもとに見渡せる。