岡村は70歳近い。
この競技を行うにしては、高い年齢だ。
ディスタンスは、犬の体力や技術と共に、飼主の体力も必要とする。
60秒間に何度投げられるかが、重要なポイントになる。
その点において、岡村は他の若い競技者よりも不利であった。

テルはボーダーコリーと呼ばれる種類の犬である。
実は、源次が初めてのペアではない。
源次にとって初孫にあたる一樹が、テルの本当の飼主であった。。
一樹がほんの冗談で始めたことだが、テルは見る見るうちに上達していった。
大きな大会を総舐めにするほどの実力が身に付いた。
いよいよ、公式大会制覇に向けて特訓開始という頃。
一樹は、交通事故に遭い、その若い命を散らしてしまった。
それ以来、テルの散歩はもっぱら源次の仕事になった。

梅雨があけ、久しぶりの青空が見えた。
「さて、テルよ。散歩に行こうか」
源次が呼びかける。
既にテルは、引き綱を咥え、玄関先で待っている。

「おやおや、いつもの事だが賢いなぁ。おまえさんは」
よっこらしょ、と立ち上がりかけた源次の手が下駄箱の
扉に触れ、開いてしまった。
中からコロコロと転がりでた物がある。
フリスビーであった。
途端にテルがフリスビーを抱え込んだ。
源次がいくら言っても離そうとしない。

「しょうが無いな。どれ、今日はそれで遊ぶか」
嬉しそうにテルが吠えた。千切れんばかりに尻尾を振っている。

三へ