2月のある日。
憑根家の主である乱臓は夕食後、嫁はんに手招きされた。

「コーヒーどうぞ」

あ。ありがと。

「アステカ神話にケツァルコアトルという神がいるよね」

…何ですかな突然。
いますね。
豊穣と平和の神でしたかな。

「でも生け贄の血と心臓を求めたという」

そう。ただしケツァルコアトルは生け贄反対派で、その為にテスカポリトカの恨みを買ったわけでしてな。
こっちは『闇を司る者』という恐ろしげな神さんですな。


「復讐と懲罰の神様ね」

さすが嫁はん。
スプリガンから得た知識やな。


「ところでさ、あなたこの前、献血10回記念品貰ったでしょ」

うん。綺麗なグラス。

「さて。本題はここからです。
これがね、あなたのカバンから出てきました。」

あ。それは只の義理チョコ。

「只の義理チョコに『この前のディナー楽しかったわ』ってラブレター付いとんのかい」

いやそれは。
みんなで行った懇親会。第一、そんなどこにでも売ってるようなチョコ。
「ついといで」

はひ。

「この献血グラスと、このハートチョコを神様に捧げる。」

いや、ちょっと待てて、それは血と心臓を意味するのではなかろうか。

「あたし、テスカポリトカ派だから」


復讐と懲罰っすか…

あぁ。何やらドロドロした暗闇が…


『我はテスカポリトカ。うむ、この杯は血に値する。良かろう。が、このハートチョコは既にマジナイがかけられておるな。
受け取るわけにはいかん』

マジナイ?


『うん。ほら見てみ。こぉんなに長い黒髪が…きゃあ怖い。じゃあね、バイバイ』


あ。テスカポリトカはん。行ってもうたがな。


「あなた」

はひ。


「ディナーおごれ」


はい。
豊穣と平和ばんざい。