村は徐々に人口を増していった。
中心部には、小さいながらも繁華街すら出来た。
それがかえって災いしたこともある。
村には、素性の知れぬ流れ者が増えてきた。

だが山の奥までは変わらない。
哲郎は相変わらず、黙々と稽古を続けていた。
十字を切り、構える。
右の突きを放ち、蹴りを入れる。

あれ以来、仁科は現れていない。
だが哲郎は、また会える日が来ることを疑わない。
雨の日も、風の日も構わず稽古を続けた。

夏が過ぎ、秋が過ぎ、山にまた冬が来た。

哲郎は、いつものように町に仕事に行き始めた。
繁華街が出来たせいで、新しい仕事にありつけたのだ。
酒のケースを運ぶ仕事であった。
普段から水桶を運んでいる哲郎には、全く苦にはならない。
これも稽古の一つだ、そう考える余裕さえ有る。

少し体調も崩している母の為にも、哲郎はなりふり構わず働いた。

十一へ