「いや、全く匂わんです。鼻がおかしくなってるようだ」

そりゃそうである。
毎日のように、世界中の臭い食品が部屋に溢れるのだ。
鼻がおかしくならない筈が無い。

「やはりな。その青海苔を塗した御萩は、そりゃあ素敵に
良い香りがするんだ。それすらも判らぬとはな」

立川先生、ギロリ、と津川君を睨んだ。
「君んとこはまだ、プロパンだったね?」

「はぁ。そうですが」

「例えばだよ、君が寝ている間に彼女がプロパンガスを
部屋に充満させたとする。普通は気付くさ。プロパンってのは
下に溜まるからね、危険を避ける為にタマネギの腐ったような
匂いがする。でも、その鼻ではそんなもの判りゃしない」
聞いているうちに津川君の顔色が見る見る蒼ざめてきた。

「気付かぬうちにガス中毒するか、それとも華々しくドカァンと
爆発するか…周りの迷惑を考えると、中毒する方をお勧めするよ」

「せ、先生、僕はどうしたらよいですか」
津川君、綺麗な顔が台無しである。
何故か鼻水までも垂れている。玉露が混じっているのかもしれぬ。

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