あなたが四歳の時よ。
家族そろって遊びに行く約束をしてた。
兄は夜勤明けで少し遅れたの。
奥さんに駅で待つようにって連絡を入れて、
自分も急いで向かったのよ。
そこで兄が見たのは、血まみれで倒れている奥さんだった。

辺りには悲鳴が溢れていた。
覚醒剤でおかしくなった男が、包丁を持って暴れていたの。
奥さんはね、慎太郎、あなたを守ろうとして、背中をめった突きにされたそうよ。
それでも、あなたには怪我一つさせなかったの。

兄は逆上した。
当たり前よね、大事な家族を傷つけられたんだから。
気がついたら、兄は包丁を奪い取って、その男を殺してしまっていた。
警察が到着する前に、兄はあたしに電話を入れたの。

『久美子、すまないが慎太郎を頼む。妻は命がけで慎太郎を守ったんだ。
俺は慎太郎の側に居るべきだったのに、
怒りに任せて、ただの人殺しになっちまった。
慎太郎を人殺しの子どもにしたくないんだ、久美子。
母親を失って、父親が人殺しなんて、そんな悲しい人生を
送らせたくない。
慎太郎には父親に捨てられたって伝えてくれ』
そう言って泣いたの。

あたしはね、説得したのよ。
確かにどんな事情でも、人を殺したのは悪い。
でも、罪を償えばまた、父親として名乗ることも出来るわ。
物心ついてから、親に捨てられたって事がどれほど子どもを
傷つけるか考えてみなさいって。

でもね、結局あたしは兄の言う通りにしたの。
父に捨てられた子どもと、父が人殺しだった子ども。
ごめんなさい、あたし、楽な方を選んじゃったの。
他人に説明する時に、どっちが楽だろうって考えちゃったの。