「ぼうずっ!こっち
へ来いっ!」

熊ジジィもいた。

「熊ジジィ!助けて!」

「ゆっくり来い。熊に
背中を向けるな。
熊を見たまま後ろ向き
でここまで来い。」

僕はゆっくりと後ろ
に進んでいった。
20歩くらい歩いた
ところで、僕の背中
を大きな手が支えて
くれた。

「よう頑張ったな。
わしの後ろに隠れ
とれ。」

そう言うと、熊ジジィ
は銃を構えた。

いつもは曲がっている
背中が真っ直ぐに
伸びた。

初めてみる鋭い目で
熊を見据えながら、
ジジィは熊に言った。

「すまんな。おまえら
が苦労しているのは
知っとるんじゃ。
だからもう、二度と
撃つまいと思うたが
、その傷ではおまえ
も辛かろう。
ワシが山の神さんの
所へ送っちゃろう。

天狗っ!行けっ!」

その声と同時に天狗
が宙を飛んだ。
天狗という名前に
相応しい姿だった。

天狗は立木を蹴って
宙に舞い、熊の意識
を上に向けた。

上向いた熊の喉笛を
ジジィの銃弾が
貫いた。

ゆっくりと熊が倒れた。

ジジィは熊に向かって
深く頭を下げ、
低い声で
「神様になって
くだせぇ」と
つぶやいた。

腰が抜けていた僕は
ジジィの背中に
負ぶさって家まで
送られた。

お母さんにこっぴどく
叱られたが、僕は
何だか幸せだった。

「ぼうず、春が来る
まではもう、山に来る
んじゃねぇぞ。」

「うん。春になったら
また、じいちゃんの家
に行ってもいい?」

「こんなジジィの所
へ来ても仕方あるまい
に。来たかったら
来たらええ。」

そう言いながらも
熊ジジィはニコニコ
していた。