健太は夢中で翔太を引き起こすと、ホームに転がるように降りた。
翔太は尚も泣きじゃくっている。

「おしっこすゆの~」

「わぁ待て、待って翔太」

慌ててトイレを探す。トイレのマークが遥か彼方に見つかった。

「ほら、翔太!急いで」

ぐずる弟の手を引き、なんとかトイレに着いた。

「ほら早くしろよ」
「こあいよ~にぃちゃんきてよ~」

「あぁもうっ!」

健太がトイレに入り、悪戦苦闘している最中。
大浜市行きの電車が到着し、そして出発してしまった。

「ちゃんと手を洗えよ」

健太がトイレから出てきた時には、既に電車はホームを離れていた。最後部だけが彼の目に入った。
「…あれ。あっ!行っちゃった!翔太、おまえがおしっこなんか行くからだぞっ!」

「だって…だって」
また泣き出した。

健太は、その途端、母の言葉を思い出した。

『男として、翔太を守ってやんなさい』
「そうだった…翔太、ごめん。にぃちゃんが悪かった」

弟はまだ小さいんだ。僕が頑張らなきゃ!

健太は、引っ込み思案で、知らない大人には声もかけられない。

だが彼は、泣き出しそうな心に父と母の顔を思い浮かべ、駅員に話しかけた。

五へ