「おやおや、ようやく花嫁が目を覚ましたようだの。
さぁ、皆の衆、婚礼の準備じゃ」

悲鳴をあげる暇も無く、小春はよってたかって花嫁衣裳を
着せられた。

「今宵、そなたは狐の眷族に嫁入りする。
衣装を調えたなら、宝物殿に行き、狐面を被るのじゃ。
我が一族に伝わる狐面、一晩立てば肉に喰らい付いて離れぬようになる。
そしてゆっくりゆっくり狐に変っていく」

「待ってください、私は何もしておりません。お稲荷様を
滅茶苦茶にしたのは錦三でございます」

「だがそなたの手拭が落ちていた」
見よ、と頭領が差し出したのは、確かに小春の手拭である。
必死の抗弁も、狐たちには通らないかと思われた。

その時、一匹の子狐が群れを割って出てきた。
ナツである。
「頭領さま、この人は私を助けてくれました。
どうか、どうかお見逃しください」

小さな体で懸命に頼むナツを見て、頭領は重々しく頷いた。
「そこまで言うのなら、仕方あるまい。
明日の朝までに、狐面が外せたならば許してやろう。
それどころか、褒美をやっても良いぐらいだ。
伏見稲荷様にかけて誓うぞよ。
では出かけるぞ、まずは宝物殿じゃ」

肉付きの面が外れるわけが無いのだ。
それを良く知った上での誓いであった。