部屋に上がるのも忘れ、俺とチィ子ちゃんは、しばらくの間、その絵を眺めていた。

「故郷、帰らへんのか?」

「帰りたい。帰りたいなぁ…あたし、こう見えても乳搾り上手いのよ。
今じゃ乳触られてばかりだけどね」

「わはは、なんやそりゃ」

しんみりした時間を過ごしたことが、何となく気恥ずかしくて、俺たちは無理矢理明るく振る舞った。

「今日の一発目のオヤジさぁ、たまんなかったね」

「あれか、マイウェイ熱唱オヤジ。五回も唄うなと」

「乱蔵さん、あれ最後に何かしたでしょ」

「ばれたか。ちぃとばかしリズムを変えた。なぁんとなく、民謡みたいだったろ」

「最高だわ」

始発までの僅かな時間。しばらくの温もりを楽しみ、俺は立ち上がった。

「もう帰るの?」
柴犬みたいに見上げるチィ子ちゃんから目を逸らし、玄関に向かう。

「うん、今から自分のバンドの練習やから。また来るよ、来てもいいなら」

「もちろん。なんなら、あたしの乳でも搾るか」

「じゃあ俺はマイウェイ熱唱しちゃる」

わははは、と笑い飛ばしチィ子ちゃんは俺の背中を一発叩いた。

「この淡白野郎が」

いててて、と逃げながら俺はもう一度、玄関の絵を見た。