フライパンや自動車のボディは、平らな鉄板をプレスという機械にかけて作られる。
凸と凹の間に鉄板を挟んで強力な圧力をかけるわけだ。
このように、平らな鉄板から立体的な形に変形させることを『絞る』という。

我が国には、伝統の絞り技術が有るのを御存知だろうか。

へら絞りというのがそれだ。

これは、凸型だけで出来る。
例えば洗面器を作るとして、洗面器の型の凸をまず作る。
その型に、円形に切った鉄板を押し当てて、旋回させる。
『へら』と呼ばれる一種の梃子棒を使って、その鉄板を中心から外側へ強く圧迫していく。

すると、徐々に鉄板は凸型に馴染んで絞られていくわけだ。

これは元々、神社の鈴やヤカン、橋の欄干に付いている擬宝珠(ギボシ)のような
繋ぎ目の無い丸い物を作るのに使われた技法だ。
この達人が我が国に居る。
一人では無いから、正確には達人たちと言うべきか。

例えば、カクテルに使うシェーカー。
ある老職人はこれを得意とした。
一枚の板から、あれほど深い容器を作るのだ。
その技術は並大抵ではない。
彼には二人の息子が居た。
いずれもが父を誇りに思い、その技を継いだ。