「あれからもう15年経つわ」
石像を優しく拭き清めながら、仁美は話し終えた。

「わたし、結局、結婚しないままなのよ。おかしいでしょ」

私は何とも言えぬまま、その姿を見守った。
ふと、気づいたことがあったので、仁美に告げてみた。
「あの…気のせいですかね、さっき触った時、石像が温かいように
思えたんですが」

「そう、判った?晃さんね、まだ生きてるの。こんな姿だけど。
四年ほど前から、少しづつ温かくなってきてるのよ」

「それは…どういうことなんでしょうか」

多分、と仁美は説明しだした。
「晃さんが与えてきた命の欠片が、戻ってきてるんじゃないかな。
彼が治してきた人や動物が、その命を終えるときに欠片を返して
くれてるのよ。全て揃えば晃さんは、元の人間に戻れるかもしれない」

「あなたは…それを待つのですか」

「ええ。できれば、あたしがお婆ちゃんになるまでに戻って欲しいけどね」
そう言って仁美は笑った。

私はもう一度、晃という青年を見た。
何故、その顔を見ているだけで暖かな気持ちになれたのか、
その理由が判った。
いつかきっと、この青年は元の人間に戻れるのだろう。
そしてまた、人を救う為に旅を始めるに違いない。

その時、仁美という女性が生きているかどうかは判らない。
それでも尚、仁美はこの場所から離れずに生き続けるのだろう。
年老いて朽ち果てるまで失わぬ愛を抱えて、この石像を見守り続けるのだ。


私は一礼して、その場を去った。
もう一度、この島に来る機会が会ったとしたら、
その時にはこの石像が無いことを祈りながら。