「え!ばぁちゃんどうしたの?」

『滑って転んだ。両方の手首を骨折したのよ。それでね、
困ったことがあってね』

「どうしたの」

『病室は殺風景だから花が欲しいってのよ。あんた買ってきて。
母さんちの近くに花屋さん無いでしょ』

花屋。確か、商店街に一軒、花屋さんがある。
「判った。買ってく。じゃあね」

残念だが、大好きなばぁちゃんのためだ、歩美は黄色い熊に
投げキッスをすると花屋に向かった。
その店には何度か行った事がある。
えっちゃんという店員さんが歩美のお気に入りだ。
知識も豊富だし、何よりその笑顔が素敵だからだ。
二、三日前に前を通った時は、店頭にシクラメン、水仙、
ポインセチア、パンジー、プリムラ、チューリップなどが並んでいたはずだ。
ところがその日、店先には一本の花も無かった。

えっちゃんが訪れる客に謝っているのが聞こえた。
「すいません、雪で到着が遅れてまして」

「あの、何時頃来ますか」
話し掛けた歩美にえっちゃんは申し訳無さそうに答えた。

「うーん…たぶん、二時頃には」

それでは間に合わない。
「判りました、ありがとう」
店を出た歩美は大きな壁にぶつかってしまった。