英夫には悩みが有る。
それは、最近出始めた腹である。
母が亡くなって以来、いい加減な食生活が続いた。
そのせいであろう。
学生の頃に比べ、運動もしなくなっている。

母は愉快な人であった。
食卓はいつも笑いに溢れていた。
時折、大人とも思えぬ悪戯をしかけては無邪気に喜ぶ
人であった。
亡くなる前の母は、酷く痩せ衰えてしまったが、
それでも最後まで英夫の体だけを案じた。

「あんたは元々、太りやすい体質なんだから、
食事の内容を考えて、体をキチンと動かしなさい」
そう言って母は、ひっそりと目蓋を閉じた。

「母さん!」

「なぁに?」
にやにやと笑いながら、母はもう一度目を開けた。

「あ、あんたなぁ!やっていい冗談と悪い冗談が」
英夫は泣きながら笑った。

「ははは。引っかかった。良い子だねぇ、お前は。
なんでこんな良い子にお嫁さんが来ないんだろうねぇ…
ほれ、あの涼子さんて方はどうなの」

微笑みながら再び母は目を閉じた。
そしてそのまま、二度と目を開けることは無かった。