いつものように、メグを鞄に入れ出勤する。
その日は桜色のマニキュアを施してある。
メグの手には、原色は似合わないのだ。

出勤早々、部長に呼び出された。
本社の依頼で、新しいCM作成を任されることになったらしい。
打ち合わせ場所に出向いた私に、プランナーの
男性が一人の女性を紹介した。
その女性と握手した瞬間、私は呼吸を忘れた。

握手したその手は、メグの手だった。
間違えるはずが無い。
握った瞬間に判った。
これはメグの手だ。
少しだけ短い小指も、細い親指も、悪戯好きな中指も、
哀しげな薬指も、傲慢な人差し指も。
メグそのものだ。
違うのは、この手は生きて動いている。
それだけだ。

「…あの。どうかなさいました?」
女性に話しかけられ、ようやく私は呼吸を再開した。

「い、いえ。何でも…」

会議の席上でも私は、その女性の手だけを見ていた。
プロフィール資料によると、女性の名前は坂上典子。
いわゆる『手タレ』、手だけのタレントらしい。
会議が終わり、立ち去ろうとしている彼女を呼び止めた。

四へ