「うん、ちょっと風邪をこじらせて気管支が炎症を起こしてますねぇ。
なに、大丈夫。お薬飲んで休養とったら治りますよ」

「ありがとうございました。あの…」

「はい?」

「いつもそのパペット付けてるんですか?」

伊藤は照れた顔を見せ、こくりと頷いた。
「や、僕の顔ね、怖いんですよ。はは、気は優しいんだけどな。
だからこいつは必需品です。もっとも、考え付いたのは僕じゃありません。
僕の奥さんです」

ああ、この人の奥さんならきっと幸せだろうな。
美奈子は、質問したことをほんの少し後悔しながら診察室を出た。

「ばいばい、くましゃん」
後ろで明日香が熊のパペットに手を振っていた。

完治するまで、それから二度通ったが、偶然にも必ず伊藤の
診察日に当たった。
明日香は、その度大喜びで診察室に入っていく。

「変われば変わるものねぇ」
美奈子は伊藤と楽しげに言葉を交わす明日香を
呆れ顔で眺めた。
伊藤は愛想だけの医師ではなく、腕の方も確かであった。
通院は二度で終った。
明日香は、しばらくは「また、くましゃんとあそぶの」と愚図ったが、
いつしかそれも言わなくなった。