生オケがいたく気に入ったらしく、次々にリクエストしてくる。

ほとんどが演歌、たまに歌謡曲。

気持ち良さげに歌いまくる。

他に客も居ず、俺達も気を使わずに演奏できる為、割と盛り上がった。

(この年代の人だと、ここらで軍歌なんだが…)

軍歌を演奏すると、嫌がる客も多い。
他に客が居ない今なら心置きなく演奏できるのだ。

俺は誘ってみることにした。

「軍歌とかもできますよ」

ところが、中の一人がこう言った。
「…わしらな、軍歌は歌えん。
ははは、泣いてしまうんだ。
大の大人がな。かっこ悪いだろ。歌は楽しいのが一番だ。」

もとより俺達に異存はない。

それからも何曲か歌いまくられた。

楽しい人達で良かったな、と俺達は顔を見合わせた。

さて、帰るかという時になって、さきほどの一人が俺に言った。

「兄さん、すまんがわしらの代わりに一曲歌ってくれんか」

「はぁ、俺なんかで良かったら」

「すまんな、ここに来れなかった奴もいるんでな。だが、わしらどうしても歌えんのだ」

俺は神妙な顔で頷いた。

「海行かばを頼む」

メロディーは知っている。
後は歌詞だ。
赤本を開けて確認し、愕然とした。

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