先生、一つ厄介な事がありますぞ」
油すましが勿体ぶって言った。

「判ってる。人間との交渉役だね」

「その通りです。さすがですな。奴等が何事か謀っているとして、
手数が必要になるやもしれませぬ。そんな時、人間を動かせるのは
人間でないと」

勿論、妖しのものの中には変化の術を心得ている仲間もいる。
例えば、五条の橋で新撰組を驚かせたのっぺらぼうもそうだ。
彼女は、さながら真っ白なキャンバスに絵を描くが如く、
色々な顔に化ける事もできた。
が、時間は限られている。
文字通り化けの皮が剥がれてくる可能性も高い。
ここはどうしても、人間側にも協力者が必要であった。

「一人、心当たりがある。誰もに顔を知られていて、
どこにでも平気で入っていける人間がいる」

「そんな便利な、というか凄い人間が居ますかな…あっ」
油すましが大きな頭を振り、頷いた。

「そう。坂本竜馬。あの人に頼んでみようと思う。
今頃は多分、寺田屋にいるんじゃないかな」

「では、まずは寺田屋ですな」
一行が旅立った後を密かにつけるものが居た。

「急ぐよ、一反木綿」
一反木綿の背中に飛び乗ったのは、のっぺらぼうだ。

「あたしらも手伝うのさ。あいつらだけには任せとけないよ。
京都の町なら、あたしが一番良く知ってるんだ」
表向き、そう言い訳しているが彼女の本心は違っている。

(もう一度、竜馬様に逢いたい)
その一心であった。

四十二へ