実篤は朝からみつを探している。
見つかるはずが無い。みつは信綱の小屋にある井戸の中だ。

「お師様。そろそろ、登城の時刻でございます」

「おぉ。信綱か。うむ、みつが昨夜から行くえが知れぬのだ。
誠に困った娘でのう。まぁ、よい、村の者にも頼んでおこう。
さて、用意はよいか。二人とも。
今日は殿自らが面を被られるのじゃ。
決着は殿に任せてある。よいな」

「もとより、覚悟の上でございます」

「わたくしにも異存はございませぬ」

吉秦公の面前で三人が平伏している。
勝負の場である城内の部屋には、吉秦以外にも
能楽を密かに愛する者達が控えていた。

「実篤。此度の面打ち勝負、その審判を我に任せて
もらえるとは誠にありがたい。この勝負、吉秦が
己の今まで培ってきた審美の全てをかけるぞ」

「はは。ありがたき幸せ。ではまず、邦芳の面から御覧くださりませ」

髭面を改めることなく、まるで仙人がそのまま降りてきたような
いでたちのまま、邦芳は前に進み出、箱を開けた。

室内がざわめいた。
今までの愚直なだけの面ではない。
邦芳は山の命をそのまま面に彫りこんだのだ。
力に溢れ、それでいて優しさに満ちている。
人々は邦芳のいでたちを今更ながら見つめた。
なるほど仙人に見えるのも無理は無い、誰もが皆納得した。

「見事じゃ。邦芳とやら、そちの面の品格、正に上。」
にこりともせず、邦芳が下がる。
続いて信綱が進み出る。


七へ