だが、熊が一つだけ使わない焼き物が有る。
伊賀焼である。その中でも、ビードロ釉と呼ばれるものだけは
頑なに使おうとしなかった。
嫌いなのではない、むしろ惚れ込んでいると言っても良い。
窯焚きの際、薪が燃焼し灰となって器胎に被り、その灰が熔け流れる
ことにより出来るガラス光沢の器である。
透明感に溢れる深い碧や、深い青が見た目に涼しい。
熊がそれを使わないわけが無い。

それは、つくね亭が開店する一ヶ月前のことであった。
熊は、ようやく母の味を引き継ぐ事ができ、開店の準備に明け暮れていた。
熊が何よりも拘ったのは、もちろん、味である。
だからこそ器に凝った。
『器も味の内』という、母の教えを守ったのだ。

何度も骨董市に足を運び、気に入った器を選んだ。
熊にその道を教えたのは、ねこやである。
熊は、ねこやが驚くほどの絶妙なセンスを見せた。

「悔しいねぇ。あんたみたいな馬鹿でかい熊男が、なんで
こんなに良い目を持ってるのかねぇ」
からかい半分、やっかみ半分でねこやが言うのも無理は無い。
熊が何気なく買った器には、時にミュージアムピース級の物も
あった。

三へ