「伊藤さん。変な電話かかってきた」
最近入ったばかりのバイトの北村が
怪訝そうな顔つきで伊藤を呼んだ。

とあるビルの一室。この界隈に林立するペンシルビルだ。
各階に3室しか無い。フロア-を結ぶのは只一台のエレベーターだけ。
伊藤は5階のワンフロア-を丸ごと借りていた。
扉には、茂山商事と書いてあるが、部屋の中には事務机など無い。
あるのは、ソファーと大型のテーブル、その上に
携帯が4台。
パソコンが3台。
事務員らしき者も居ない。

「変な電話?カモからじゃねぇのか」

「いや、違うんす。あの…真田加奈子の旦那って
名乗ってます。」

「真田加奈子?どこかで効いた名前だな。」

北村は、パソコンの画面を伊藤に向けた。
モニターにはブログらしき画面が現れている。
ブログのタイトルはZUPPORI。
ありとあらゆるブログに無断でトラックバックし、
訪ねてきた若い男を引っ掛ける
出会い系サイトの入口である。
それぞれのパソコンで異なる名前のブログが
立ち上げられているが、いずれも同様の内容であった。

そのうちの一つが真田加奈子であった。
無論、実在の人物ではない。
伊藤達が適当に作り上げた名前だ。
記事の内容は、北村がそれらしくでっち上げた。
そこに貼られている女の画像も、ネットで拾ってきたものだ。
北村はパソコンの腕を買われて採用されたのだ。

「こいつか。確かに真田加奈子だな…
で、そいつの旦那からってのか」

「ええ、いつもありがとうとか言ってます」

「代われ」

伊藤は北村から渡された携帯に、
いきなり怒鳴りつけた。
「おう、こら。ふざけた電話してくれるじゃねぇか」

恫喝に慣れた者が出す独特のトーンである。
この声だけで、違法請求に応じる被害者も多かった。
けれど、電話の向こう側の男は平然と答えた。