「この時に、ポマードという言葉を三回繰り返して言うと、怖がるそうです」
縄谷がレポートを読上げる。
ふんふん、とうなずくのは樹林だ。

「あ、でもうちの田舎じゃ手の平に『犬』って書いて見せると逃げるとか」
多中が横から口を挟んだ。

「ふむ。ポマードを髪に塗っておくだけで良いとかも言ってたな」
樹林が続ける。

「でもなぁ…ポマードを頭に付けてる小学生ってなぁ」
やだよね、と呟いて梅昆布茶を啜る。
ずず、と茶を啜る平和な音が都伝隊事務所に響く。

「でですね、出身は岐阜県美濃加茂市ってのが定説です。」

「広島ってのもあるよね」
隊員達の話は続く。

彼等は今回、伝説の怪物に挑む決意を固めていた。
その名は『口裂け女』
80年代初期、日本中を恐怖の坩堝に叩き込んだ伝説である。
それは様々なバリエーションを呼び、いつの間にか消えた。

「君たちは彼女を何だと思う?あぁ梅昆布茶は美味しいねぇ」
ずず。

「妖怪…ですかね」

「手術が失敗したとか…」

ずずず。
「あぁ美味しかった。…違うな、そのいずれも違う」

樹林は梅昆布茶を飲み終え、マグカップを置いた。
沈黙が続く。