おや。脱走兵だ。
俺の目の前を柴犬が一匹、すちゃすちゃと歩いている。

茶色の体に赤い首輪が良く似合う。

確か…、吉松さんとこのプックルだ。

脱走するとは珍しい。
いつもこの時間帯に、吉松さんと仲良く散歩しているのだが。

とりあえず、脱走兵を確保しなければ。
俺はプックルくんの後を追った。

プックルは川沿いの道を通り、公園に向かっている。

「おぅぃ。プックルくん。家の人が心配してるよ」

プックルは俺の顔を見もせず歩き続ける。

とうとう、公園に着いてしまった。
桜が見えるベンチの側に伏せたまま、動こうとしない。

一旦帰宅し、吉松さんに直接教えた方が良いか、俺はそう考えた。

引き綱も必要だ。


急いで吉松さんの自宅に向かった。

目を疑った。

お通夜の最中だった。


「あの…」

「あ、つくねさん」
「まさか、吉松さんとこのおじさんが?」

「あぁ、そうなんよ。脳卒中で」

あぁ。そうか。
俺はその時気づいた。

プックルは散歩してたんだ。
いつものように、ご主人さまと一緒に。

吉松さん、最後の桜をプックルと一緒に見たかったんだな。

しばらく、桜を見たら帰ってくるに違いない。