「なるほど」
思わず、藤田は口に出した。

「何がなるほどなんです?藤田さん」
注文した鯖味噌定食をいぶが運んできた。

「あ、いや。この店は不思議な店だな、ってことだよ」
照れながら箸に手を伸ばしかけた藤田の動きが止まった。

「あれ。俺、女将に名前言ってたっけか」

「店の前にある鉢植え、見覚えありませんか?」

「あ、いや実はそうなんだ。半分は、あれに惹かれて入ったようなもんでな」

それを聞いたいぶは、思いもかけぬ事を言った。
「あの鉢植え、藤田さんの奥様から頂いたものなんですよ」


二年前の事。
いぶは、市場からの帰り道、藤田の家の前を偶然通りかかった。
漂ってくるハーブの香りに誘われ、庭に居る人に話しかけたのだという。
それが藤田の妻だった。

「凄い庭ですよ、藤田さんちの庭。
バジル、ローズマリー、タイム、オレガノ、ローリエ、セージ、
コリアンダー、クローブ。
ありとあらゆるハーブが植えられてます。
あと、塩とシナモンと胡椒、それとナツメグかな、それだけ有れば
ハーブソルトが出来るくらいの庭。
わたし、あんなに素敵なハーブ園て見たこと無い。
その時、藤田さんをお見かけしたんです」

「あぁ、そうなんですか」

「その時に話が弾んでね、収穫したハーブをうちの店で使って欲しいって
持って来られたの。
このところ、お見受けしませんけど、どうかされたんですか」

辛い。
この女将に事実を告げるのは、余りにも辛かったが、やむなく藤田は口にした。